『産経新聞』2007年8月15日付

改革進まぬ「象牙の塔」 法人化4年目の国立大学


国立大学が法人化され4年目になったが、教職員の意識改革や組織改編が進んでいないことが全国の国立大学法人の学外委員を対象に行われたアンケート調査で分かった。「象牙の塔」と呼ばれた閉鎖的な大学の活性化を目指し法人化が導入されたが、民間企業の“社外取締役”にあたる学外委員の目からは「改革意識が薄い」「新しい仕事に積極的でない」など不満が相次いだ。

調査は昨年11月、国立大の職員らで作る「国立大学マネジメント研究会」のグループが、大学経営を審議する「経営協議会」の学外委員677人(87大学)を対象に実施し、286人から回答があった。

調査結果によると、学外委員は企業関係者や官公庁・法曹界などで構成され、「国立大の経営が期待通りに機能しているか」をたずねたところ82%が「そう思う」と回答し、表面的には順調な進展がうかがえた。

だが、自由記述では厳しい意見が相次いだ。

教職員の意識改革については「変わっていない。特に事務職員は新しい仕事に積極的でない」「(学外委員が)具体的な提案をしても議事録に書かれるだけ」など消極的な姿勢を批判している。

学長がリーダーシップを発揮しての改革が必要だが「親方日の丸意識が抜けていない。学長の意向が教職員に及んでいない」「学長選考会議を通じて『変わりたくない』との意識が強いと感じた」としている。

法人化後も「国の関与が強すぎる」と批判も多かった。文部科学省からの幹部事務職員について「人事は相変わらず文科省直轄。本省ばかりを向いて地域や学内に目が向かない」と苦情もあった。国からの運営費交付金が毎年削減されていく事情を踏まえ、「旧帝大以外の研究費が少ない」「教員養成大学では自主財源の確保は難しい」と研究費増額を求める声も相次いだ。

研究メンバーの上杉道世・元東大理事は「批判が多いのは教職員に現状維持の志向が強いからだ。ただ、学外委員は民間の基準で断定しすぎる側面がある。大学が変わるにはまだ時間がかかり、学内外のコミュニケーションが必要だ」と話している。

■天野郁夫・元国立大学財務・経営センター研究部長の話「法人化によって大学自治に経営の視点が入ったのは大きな変化だ。人、モノ、カネの再配分が自由になったが、職員は独創性を発揮する意欲に乏しく企画立案能力がない。これまで何もしてこなかったのだから、すぐには変われない。ただ、地方大学では『ミニ東大』から脱却しようとする意識が根付いてきた。地域との連携も進んでいる。国立大学発足以来の大変革なので結論を出すのは時期尚早。長い目で見守るべきだ」