『信濃毎日新聞』社説 2007年8月16日付

学力テスト 格差広げる競争は困る


信州の短い夏休みは間もなく終わる。新学期が始まると、9月には全国学力テストの結果が公表される。その結果をどう受け止めて、指導に生かすか。点数競争に陥らない対応を考えたい。

約40年ぶりに行われた学力テストは、小学6年、中学3年の233万人余りが受けた。国語と算数・数学の2教科で、基礎的な知識と応用力を試す問題が出た。

文部科学省が公表するのは都道府県段階の正答率。詳しい結果は市町村教委や各学校に届けられ、それぞれの判断で成績を公表できる。扱いによっては、学校の序列化につながる心配がぬぐえない。

学力テストの問題点をあらわにしたのが東京都足立区での不正だった。昨年行った区独自のテストで、ある小学校が特別支援学級にも通う児童の答案を集計から抜き取っていた。別の小学校では、校長らが試験中に答案を指さして、児童に間違いを気付かせていた。学校の成績を上げるための不正である。

足立区では学校ごとの成績を公開している。区全体で学校を選ぶことができる制度になっているため、テストの結果は重大な意味を持つ。

人気のある中学は定員を超える入学希望者があり、抽選を行う。一方、希望者が定員の半分にも届かない学校もある。より多くの生徒を集めるために、点数アップが学校の目標になる。いったん評価が低くなると、逆転は難しい。

子どもや親にとって、学校が選べるのはいい面もある。一方、教育に熱心で経済的に余裕がある家庭が人気校に集中し、不人気校が困難な家庭環境の子どもを抱え込みがちという指摘もある。学校間競争の“先進地”の実情を見ると、教育格差が広がる危うさがうかがえる。

長野県内でも一部で私立中学を目指す小学生が増えつつあり、学校選択制も広がっている。義務教育での競争や選択に無縁ではいられない。

政府の教育再生会議は、生徒や保護者が学校を選択して、人気の高い学校には予算を多く配分する「教育バウチャー(利用券)制度」の検討を始めている。第三者による学校評価制度も課題だ。学校を競わせることで、教育の改善につなげるとの狙いである。

そこに学力テストが選択の材料として使われれば、足立区のような不正が繰り返される心配がある。それでは質の向上どころではない。

学校や保護者が、まずは冷静にテスト結果を受け止めたい。その上で、指導にどうつなげるか、国や教育委員会の姿勢が問われる。