『nikkei BP net』2007年8月8日付

産学連携実績で総合大学を凌駕する農工大


産学連携に関して、東京農工大学は目覚しい成果を上げてきた。2005年度には教員1人当たりの共同研究受け入れ金額で148万円と全国1位、企業との共同研究が約250件、そこからの収入が約6億5000万円、農工大発ベンチャーも30社近く創出している(2000〜2006年度の累積)。教員が約400人、学部生が約4,300人、大学院生が約2,000人という中規模大学にも関わらず、大規模大学に優るとも劣らないこのような成果を上げてきた秘訣はどこにあるのか。農工大の産官学連携・知的財産センターのセンター長である中川正樹氏と同センター教授の小島寛明氏、農工大TLO(technology licensing organization)社長である伊藤 伸氏の3氏に同大に産学連携活動の特徴を聞いた。(聞き手は品田 茂=日経BP知財Awareness編集)

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問:規模的に小さい農工大は、総合大学に比べて技術シーズの数などが限られる。その中で、総合大学を凌駕するような実績を上げてきた。なぜこのような実績を上げることができたのか。

答:実学指向の校風、適切で迅速な制度設計などが最大の理由だろう。同センターの主業務は、(1)企業との共同研究のコーディネーション、共同研究契約書の締結などのリエゾン活動、(2)学内の研究者から発明案件の届出があった際の技術内容のヒアリングや特許の出願明細書作成、などである。国立大学法人化後は、農工大TLOと技術移転に関する業務提携基本契約を締結し、マーケティングによる社会ニーズの把握や、権利化された特許のライセンス先を探す技術移転を御願いしているが、大型の共同研究の発掘にも貢献してもらっている。

この上で、両組織は農工大の社会貢献という大目標のために産学官連携に取り組んでおり、前述した業務範囲に拘泥することなく効率を重視した柔軟な活動を展開している。例えば教員から発明案件の届出があった場合、その案件を大学として特許出願するか否かを発明審査委員会で審議するが、この委員会には農工大TLOの社長である伊藤氏以下スタッフが参加し、マーケティングの観点からコメントする。

また、農工大TLOが主導で農工大と企業との共同研究をコーディネートした場合に、間接経費からインセンティブを払うことも決めた。マーケティングの経験から社会ニーズを熟知している農工大TLOが、デマンドプル型の共同研究をコーディネートした方が効率は良いからである。特許ライセンシングの手前の段階から、農工大TLOの貢献を明確にし、インセンティブを高めることを狙っている。