『日本農業新聞』論説 2007年8月1日付

大学法人化/研究現場の変質を防ぐ


2004年4月に国立大学の法人化がスタートして3年が経過した。自主独立や自らの責任で経営状況を適正化するといった目標を掲げた法人化だが、大学経営の在り方の変化とともに、研究現場も徐々に変質している。「多くの企業がリストラや改革に取り組んでおり、国立大学も例外ではない」という考え方は一般的なのかもしれない。しかし、“稼げない”基礎研究、特に農学の基礎研究がないがしろにされないか心配だ。

最近、日本農業新聞で紹介される大学の研究報告は、これまでとは少し様相が違ってきている。以前は農業関係の研究は、農学系の学部の研究がほとんどだった。しかし最近は、工学、医学、理学部などの他学部からの“進出”が目立つようになった。

だが、それは一方的な流れだ。非農学系の学部からは“進出”されているが、「逆の流れは少ない」と嘆く声が聞こえてくる。さらに、そうした研究が、多くの特許を申請しており、産業界との連携が強まっているというのも新しい流れだ。農学系の研究者が奥ゆかしいのかもしれないが、“相互”の交流にならないのが歯がゆい。

産業界と連携を強めつつ、非農学系の“進出”が活発なことの背景には「大学の財政状況がある」とみられる。というのは、国立大学法人化の狙いの一つに、国に頼らず、「学長のリーダーシップのもとに自ら資産を運用、資金を獲得し、個性豊かな大学をつくる」というものがある。ところが、大学の財政が厳しく「もうかる研究への傾斜」が強まっている。

国立大学の収入源は学生からの授業料や入学金、委託研究費、科学研究費補助金、運営費交付金などがある。このうち、運営費交付金は国から支払われ、07年度は総額1兆2000億円。大学の収入のうち約4割を占めるという。この運営費交付金が毎年1%減額される。関東地方のある国立大学では教授の退任後も後任の教授を置かず、研究室を統合するなど、人件費や研究室の経費切り詰めに躍起だ。多くの大学の予算は研究室の「成果」によって評価され、配分される。

昨年成立した新たな教育基本法の第7条で、大学は「新たな知見を創造し、これらの成果を広く社会に提供する」とされているように「産学協同」は時代の流れだ。大学の知的財産を世の中に出して、社会の役に立てるというのは価値がある。しかし、「特許等で稼げない」研究が、ないがしろにされてはならない。

研究の評価方法は慎重であるべきだ。今日の稼ぎも大切だが、明日のための種子である基礎研究はもっと重要だ。今すぐに利益の挙がらない研究をすることにも、国公立大学の役割があったはずだ。「たとえ飢え死にしても、種もみには手をつけない」という「種子を大切にする」農家の知恵に学んでほしい。