『中日新聞』2007年7月28日付

大学教員にも雇用格差 低賃金、未保険、雇い止め…非常勤の多くが泣き寝入り


都内の私立大学で、単年度の労働契約を繰り返し十四年間非常勤講師を務めてきた女性(60)が、契約更新を拒否(雇い止め)された。女性は労働審判を申し立て、調停が成立した。大学の雇用格差を探った。 (草間俊介)

労働審判で調停が成立

この女性は一九九二年、大学の文系の非常勤講師に採用された。契約期間は一年間(年度)で、問題がなければ自動的に更新するという説明を受け、実際に更新され続けてきた。昨年度は授業を週四コマ担当し、月約十三万円を得ていた。

昨年六月、来年度の契約更新はしないと通告された。女性は「有期労働契約の雇い止め」の問題があるとして大学に理由の説明を求めた。

非常勤講師やパートタイマー、契約社員、嘱託、アルバイトなど期間を定めた労働契約でも、反復更新され長期間におよんだ場合は、期間を定めない契約とみなされるという判例も出ている。厚生労働省は「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準」などで、契約締結時の明示事項、雇い止めの予告、雇い止めの理由明示などのガイドラインを示している。

女性の話によると、大学関係者は、女子留学生への不適切な扱いなどを理由に挙げたという。しかし、当の学生から「不適切な扱いを受けた覚えはなく、私のせいで先生が職場を追われるのは悲しい」との内容の手紙が届いた。「この学生のためにも、泣き寝入りはしない」と今年二月、雇い止めは不当だと労働審判を申し立てた。

大学側は審判で「金銭的な解決」を提案し、女性も「新年度の授業は担当者がすべて決まり、職場復帰は事実上できなくなった」と応じ、(1)雇用契約終了を確認する(2)大学は本件解決金百万円を支払う−などで調停が成立。解決金は五月に支払われた。大学広報部は「(調停で決めたこと以外は)お話しできない」と話す。

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「このような雇い止めは珍しくはない」と話すのは、「首都圏大学非常勤講師組合」の志田昇副委員長だ。同組合などが全国約千人の非常勤講師にアンケートしたところ、50%が雇い止め「経験あり」と回答している。

志田副委員長は「雇い止め問題が組合に持ち込まれ、団体交渉で解決をめざすのは年に二十件ほど。ほとんどが泣き寝入りしている。非常勤講師の雇い止めで労働審判への申し立ては初めて聞いた」と調停による解決を評価した。

教授、准教授、講師など「専任教員」と「非常勤講師」を足した大学全教員数(のべ人数)は、文部科学省の調査では約三十二万八千人(二〇〇六年度)。専任教員が他大学の非常勤講師を兼務しているような例を除いた「非専任教員の非常勤講師」は約十万七千五百人(のべ人数)。大学の全教員数に対する割合は32・8%に上る=グラフ。実際は一人で三、四大学を掛け持ちしているので、約三万人と推定される。非正社員が増えた企業の雇用状況と同じで、大学でも非専任教員が増加している。同アンケートでは44%が年収二百五十万円未満。不安定な身分や職場の社会保険未加入などに不満が集中した。

志田副委員長は「専任教員(正規雇用)なら、(1)給与(2)社会保険(3)研究費を含む経費−などで一人あたり年約二千万円かかる。でも、非正規雇用なら週五コマで、給与約百五十万円もあれば足り、ほとんどは退職金(慰労金)もない。専任教員と同じ『均衡処遇』が必要だ。大学教育のかなりの部分は非常勤講師が担っているのだから」と訴えている。