『朝日新聞』2007年7月24日付

国立大、地元貢献に活路


地方の国立大が、「地域社会への貢献」を改めてアピールし始めた。補助金の改革論議などで競争原理の強化がテーマにあがり、今後の展開次第では厳しい再編・淘汰(とうた)に巻き込まれかねないからだ。旧帝大のような規模や知名度はなく、全国から学生を集めることが難しい大学は、単独での生き残りにどんな取り組みをしているのか。

●宇都宮大 独自ファンドで活動支援

銅山があった足尾地域の緑化体験に17万円、学生を県内の学校に派遣するスクールサポートセンターに100万円、留学生センターの地域交流に50万円……。

6月下旬、宇都宮大(宇都宮市)の大学会館で、地元の地名にちなんで名付けられた「峰が丘地域貢献ファンド」の会合があった。学外の委員を含む12人が1時間余り意見交換し、今年度は10の地域貢献事業に448万円を支出することなどを決めた。

ファンドは菅野長右エ門学長の肝いりで、地域貢献につながる学生のボランティアなどを資金援助するため、06年に設立した。国立大では初の試みだ。

大学の他、地元の足利銀行などが出資して3億円でスタートしたが、資金を出す企業が増えて今年6月時点で5億円を超えた。国債などで資金を運用し、その収益を活動資金に充てる。今年度の運用益は640万円と、233万円だった06年度の2.7倍を見込む。「将来は10億円規模に」(財務課)と意欲的だ。

ここ数年、様々な形で地域貢献に力を入れてきた。スクールサポートセンターの設立は05年。06年には大学構内の土地を無償で貸し、地元住民も利用できる保育園を立ち上げた。今春には、宇都宮市など自治体との連携の窓口となる産学地域連携課を設けた。

企画戦略担当理事の水本忠武・副学長は「大学の個性化が求められており、地域貢献の位置付けは非常に大きい」と力を込める。目指すのは「我々が地域に貢献し、地域が我々を支えるスパイラル(らせん)のような関係」。日光など観光資源が多い地元の特性を生かそうと、学生のボランティア通訳なども検討する。

●鳥取大 高級川魚の養殖を軌道に

京料理の高級食材として知られる淡水魚のホンモロコ(コイ科)。肉や骨が軟らかく、川魚特有の臭みがほとんどない。もとはといえば琵琶湖固有の小魚だが、養殖を手がける戸数が最も多い都道府県は、意外にも鳥取県。その立役者が鳥取大農学部だ。

「ホンモロコは(積雪が多い)県内の中山間地でも十分越冬可能で、定着しうる魚種だ」。02年、農学部の七條喜一郎助教授(当時=05年退職)や斎藤俊之准教授らを中心とする研究チームはこんな研究論文を発表した。

琵琶湖でのホンモロコの漁獲量は、環境の変化や外来魚の影響などで、99年には94年の10分の1近くに落ち込んでいた。チームはそこに目をつけた。新たな特産品作りと、県内の水田の4割に達する休耕田の活用とを結びつけ、一石二鳥の地域振興策として展開できないか――。

03年度に「県ホンモロコ生産組合」が発足し、鳥取大と県、地元農家らが協力して養殖事業が始まった。当初の参加は4戸だけだったが、面積あたりの粗収入が稲作の3〜4倍で、作業も比較的楽な点が注目されて、今年度は55戸。埼玉県を抜いて「日本一」だ。

農学部発のベンチャー企業「内水面隼研究所」(鳥取市)の社長に転じ、養殖事業を支援する七條さんは「地元に生きる国立大として、地域活性化に貢献したいという思いが強かった。ようやく軌道に乗ってきた」と語る。斎藤准教授も「エサの改良など、研究が必要な分野が残っている。大学と地域でタッグを組み、頑張りたい」。年間売上高は約1000万円だが、10倍の1億円産業に育てあげることが目標だ。

鳥取大が04年の法人化以来掲げる中期目標の柱の一つは「地域社会の産業と文化等への寄与」。農学部ではホンモロコの養殖支援のほか、ダチョウの飼育やダチョウ・オイルの商品化に向けた研究も進む。