『京都新聞』2007年7月17日付

チンパンジーに豊かな老後を
京大、保護区運営へ


京都大は17日、熊本県に三和化学研究所(名古屋市)が開設した日本初のチンパンジー保護区「チンパンジー・サンクチュアリ・宇土」の運営を京大霊長類研究所が担当することが決まった、と発表した。医学実験などのために輸入され、高齢化が進むチンパンジーの福祉と老後を豊かにする研究と実践を進め、加齢や老化、長寿など人との比較研究に役立てる。

チンパンジーは、国内で動物園や研究所など55施設で347頭が飼育されている。現在、医学実験は行われていないが、孤独に生活する個体も多く、高齢化も問題になりつつある。

三和化学研究所は1980年代からC型肝炎などの実験対象だったチンパンジーの受け入れを続けており、国内最大の78頭が熊本県宇城市宇土の屋外運動施設などのある飼育施設で生活している。この施設を今春に「サンクチュアリ」として組織変更、8月1日から京大霊長研に寄付講座(客員教授・伊谷原一林原生物化学研究所類人猿研究センター所長)を開設し、専任の教職員3人が熊本に赴任する。

高齢のチンパンジーの生活の質向上や認知症などの疾患研究を進める一方、自然に近づけた食事や居住、社会生活や子育てなど環境改善に向けた研究と実践を進める。チンパンジーの肝炎などの疾患治療も進め、人の治療へも生かしていく。

寄付講座は2012年までの5年間で寄付総額は1億5000万円。期間内にサンクチュアリの将来計画をまとめる。京大霊長研の松沢哲郎所長は「チンパンジーを知り、地球のことを考える拠点としたい。チンパンジーが3世代のまとまった群れとして生活できるように、サンクチュアリの実践を発信し、動物園へ働き掛けたい」と話している。