『山形新聞』2007年7月11日付

医学部定員増で準備入り 山形大、期待と課題抱え


大学医学部定員の暫定増を認める国の新医師確保総合対策で、10人の定員増を申請する方針を決めた山形大医学部は、具体的な条件整備に向けて準備に入った。全国の中でも勤務医不足が深刻で、絶対数の確保が不可欠となっている本県にとって、総合対策は、地元大学での養成枠が拡大できる救済策と期待される。一方で定員増がそのまま医師増につながるとは限らず、県や医学部関係者からは、国が示している方針の不透明さを指摘する声も聞かれる。

山大医学部によると、2004−06年度の医学科卒業生計292人のうち、約40%(117人)が研修医として県内に残った。研修医は、修了後もその病院に残るケースが多く、県健康福祉企画課は「分母が増えれば、その分の効果が望める」と定員増に期待する。

ただし、総合対策の暫定増は、あくまで「将来の医師養成の前倒し」。後で定員を減らし、増員分を調整することが前提だ。山形大の場合、定員110人が10年続いた後、定員90人が10年続くことになる。対策では「養成増に見合って医師の(地元)定着数の増加が認められる場合に限り」、暫定増の後も現行定員の100人を維持できるとしているが、評価基準は明確にされていない。同課は、そのあいまいさを指摘し「基準の明示を求めていきたい」としている。

一方の大学側は、定員増に対応するための教員、設備などの予算措置が示されないことにも不満を訴えている。「教育の質を保つには、解剖台1つとっても、学生が増えれば、その分の台数が必要になる。指導に当たる教員も同じだ」と嘉山孝正医学部長。人件費など約7000万円の措置を文部科学省に求める考えで、10人増を前提としつつも、実際の増員枠は、確保できた予算額に応じて決めたいという。

また、国の総合対策では、一定期間の県内勤務を返還免除とする奨学金の創設が求められ、県は既に制度を整えた。同様の要件で修学資金が免除されている自治医大の場合、本県出身の卒業生(1978−2006年度)計61人のうち、現在、県内の公立病院に勤務しているのは、約6割の37人。

高度な専門知識と技術向上のため、若手医師の都市部集中と地方離れが加速している中、県外出身者が8割を占める山大の医学生に対し、奨学金が、医師定着にどれほどの効果を生むかは疑問が残る。

県健康福祉企画課は「総合対策は、医師不足解消のきっかけの1つ。結局は、医師が残りたいと思えるような魅力的な環境を整えなければ、長期的な定着にはつながらない」と話している。

◇新医師確保総合対策

厚生労働、文部科学、総務の3省が去年8月に策定。「医師不足県」とされる本県、青森、岩手、秋田、福島、新潟、山梨、長野、岐阜、三重の計10県の医学部について2008年度から最長10年間、10人までの定員増を認めるとした。1997年に閣議決定した医学部定員の削減方針は維持する。ほかに自治医科大の定員暫定増、医学部入試での地域枠、へき地枠の推進などを盛り込んでいる。