『朝日新聞』2007年7月2日付

大学院予算、狭く厚く グローバルCOEプログラム


大学院の優れた教育研究拠点に予算を重点配分する「グローバルCOEプログラム」で、初年度となる07年度の審査結果が公表された。前身の「21世紀COE」時代から批判が強かった旧帝国大への集中がさらに進む一方、東京大は申請分の7割が落選した。一見矛盾する二つの現象を読み解くカギは、「グローバル」では、1件あたりの金額を増やすため「21世紀」から採択数を半減させたことにある。

○年間平均2.6億円と倍増

グローバルCOEは、02年度スタートの21世紀COEを受けて始まった。今年度の対象分野は生命科学など五つで、「21世紀」初年度の02年度と同じ。採択された63件のうち9割近い54件が02年度採択分の発展型で、実質的には「21世紀」の継続版だ。

今回の特徴は「件数半減、金額倍増」だ。02年度の採択件数は113件だったが、その半分強に絞り込んだ結果、1件あたりの年間配分額は平均2億6千万円と「21世紀」の約2倍になった。プログラム委員長の野依良治・理化学研究所理事長は「選択と集中」を強調する。

「21世紀」では国立大、特に旧7帝大に採択が集中したことが批判されたが、今回もその傾向は変わっていない。採択数でみると、国立大の比率は79%で02年度の74%から上昇し、旧7帝大では43%から51%に。一方、公立大は4%から5%へとほぼ横ばいで、私大は22%から16%に下がった。

研究費の配分問題に詳しい早稲田大の竹内淳教授は「結果は予想通り」と話す。「旧帝大は研究費の配分でずっと優遇されてきたので、研究力も高い。採択数の半減で、21世紀COEでは何とか選ばれた私大や地方の国立大が選ばれなくなった」と指摘する。

21世紀COEでは採択されたが今回は落選した山形大の仙道富士郎学長も「総合力では旧帝大が圧倒的に強い。件数半減のもとでは実力通りの結果と認めざるをえない」。

「件数半減」への賛否は様々だ。

大阪大の馬越佑吉副学長は「21世紀COEで採択されていても、すべてを続けるのはよくない」。東京工業大の下河辺明副学長も「21世紀COEは、卓越した拠点作りには(1件あたりの配分額が)少なかった」と賛成する。一方、早大の竹内教授は「研究費の寡占化をいっそう進める」、山形大の仙道学長も「研究はすそ野を広げた方がいい」と批判的で、東大の岡村定矩副学長も「教育を重視するなら21世紀COEの規模で十分」と話す。

その東大は、全体でトップの19件を申請しながら採択は6件どまり。「21世紀」からの継続分は9件のうち5件が選ばれたが、断トツの10件を出した新規分は1件だけだった。

「新規の申請にはパワーがいる。東大はすごい」(阪大の馬越副学長)と評価はゆるがないものの、「件数半減」に直撃された格好だ。東大自身も「新規分は相当良い提案だと思うが、審査では21世紀COEの実績が重視された」(岡村副学長)とみる。

○提案絞り込み、教育面重視も

今回の審査では、新規分では申請177件に対して採択は9件で、競争率は約20倍。継続分でも約半数が落選した。首尾よく採択された大学は「狭き門」をどうかいくぐったのか。

関西大は、「21世紀」では計9件を申請したが採択ゼロ。「関関同立」と呼ばれる関西の有力4私大で唯一取り残されていただけに、危機感は強かった。

「申請内容を精査し、バックアップする態勢が不十分だった」との反省から06年、全学横断の推進検討会を設置。約1年かけて「学外から研究費を獲得した実績があるか」「関大の強みを発揮できるか」などの観点から学内の提案を2件に絞り込み、責任者から聞き取りを繰り返して内容に磨きをかけた。

採択第一号となった「東アジア文化交渉学の教育研究拠点形成」では、半世紀を超す歴史を持つ同大学の東西学術研究所などでの研究実績を前面に出した。河田悌一学長は「まさに『快事』。大学の総力を挙げたので本当にうれしい」。

採択された28大学の中でトップとなる7件が選ばれた大阪大は新規分でも唯一、2件が当選した。馬越副学長は「勝因」として「育成する人材像を明確にし、どんな講義をするのか教育プログラムを明示した」ことをあげる。「グローバル」の審査では「研究に加えて教育面も重視する」方針が示されていたからだ。

東京工業大も「教育が一番と意識し、研究が先に出ているような申請書は書き直してもらった」(下河辺副学長)。継続分は申請した4件がすべて採択され、新規分も2件中1件と「高打率」だった。

〈COE〉 「センター・オブ・エクセレンス」(卓越した拠点)の略称。大学同士の競争を活発にし、世界的な拠点作りを狙う。「21世紀」が「研究教育」を掲げたのに対し、「グローバル」は「教育研究」で、教育面も重視する。02年度に始まった「21世紀」では最初の3年間に審査が実施され、計274件が選ばれた。総額約1760億円が交付される。今年度からの「グローバル」も仕組みは同様だ。

■大学種類別の申請・採択数の内訳

●申請 281件

国立大   200(71%)

 旧7帝大  75(27%)

 その他  125(44%)

公立大    22 (8%)

私立大    59(21%)

●採択 63件

国立大   50(79%)

 旧7帝大 32(51%)

 その他  18(29%)

公立大    3 (5%)

私立大   10(16%)

 (%は小数点以下を四捨五入したため、数字が合わない部分がある)

■07年度分野別申請・採択数(カッコ内は02年度)

分野        申請数      採択数

生命科学       55(112)  13(28)

化学・材料科学    45 (82)  13(21)

情報・電気・電子   37 (78)  13(20)

人文科学       39 (79)  12(20)

学際・複合・新領域 105(113)  12(24)

合計        281(464) 63(113)