『信濃毎日新聞』社説 2007年6月30日付

医学部定員増 信州で働く魅力作りを


千曲市にある長野赤十字上山田病院が、来年3月で閉鎖される見通しになった。ほかにもお産の受け入れを制限したり、診療科を減らさざるをえない病院も相次いでいる。医師不足の影響が県内でも急速に広がっている。

信大医学部は来年度から定員を増やし、卒業後も県内で働くことを条件にした奨学金を始める。卒業生が実際に働くのは先の話だが、医師確保の柱になる。医師不足対策に特効薬はなく、長期、短期の視点でさまざまな手を打っていくしかない。信大が果たすべき役割は大きい。

政府は1980年代半ばから、医学部定員の削減を進めてきた。現在はピーク時より約8%少ない7600人余りに抑えられている。

医師不足が広がる中、国は特例として長野など10県で、医学部の定員を最大10人まで増やすことを認めた。その条件として地元定着をはかる奨学金の創設を県に求めている。長野県は昨年度始めた医学生対象の奨学金制度を活用する予定だ。

信大医学部の定員は10人増やして105人になる。奨学金は在学中に月額約20万円を貸与し、卒業後9年間は県内で働くことを義務付ける。毎年20人の利用を目標とする。

新しい研修制度で地方の大学に残る研修医が減り、医局による医師派遣がますます難しくなっている。そういった中で、定員増と奨学金制度は県内で働く医師を増やすことに一定の効果はあるだろう。

ただし、これで医師が確実に増えるかは定かでない。9年過ぎれば、仕事や生活の環境を考えて首都圏などに異動することも心配される。

定着を図るには、長野県で医療に携わる魅力を学生に伝える工夫が必要になる。地域の人々と密接にかかわりながら、総合的な診療ができるだいご味は地方ならではだろう。県内の病院が手掛けてきた農村医学、地域医療の財産を若手に伝えたい。

一方で、地方にいても医学の最先端から遅れないように、研修の場を広げる必要がある。女性医師が出産を経ても働き続けられるようにするなど、住みやすさ、働きやすさを宣伝材料にする工夫も欠かせない。

信大は本年度から小児科、産科、麻酔科、救急の医師を育てる地域医療人育成センターを発足させた。地域の病院と連携して地域医療を学ぶ講座も05年から始めている。こうした取り組みを充実させて、県内の医療水準を上げる努力を重ねたい。

地方の国立大学にも成果や競争が求められる時代だ。医師確保に中核的な役割を果たすことが、信大の存在意義を高めることにもなる。