『読売新聞』2007年6月30日付

グローバルCOEに28大学


国際的に優れた大学の研究教育拠点を国が支援する「グローバルCOE(センター・オブ・エクセレンス)プログラム」に、28大学63件の研究計画が選ばれた。

研究内容だけでなく、研究者を育てる教育機関としての質が重視されたことが大きな特徴だ。採択された拠点の計画をみると、大学院教育の将来像が浮かび上がる。

■選択と集中

同プログラムは、2002年度にスタートした「21世紀COEプログラム」を引き継いだものだ。

「21世紀COE」は、3年間で計274件の研究計画を選定。1件あたり、平均年1億3000万円を5年間支給している。

これに対し、「グローバルCOE」は、今回の63件を含め3年間で150件程度の採択を予定。選択と集中を意識して、件数を半数近くまで絞り込んだ代わりに、1件あたりの補助額を年2億6000万円に倍増させた。

内訳は、国立が21校50件、公立3校3件、私立は4校10件。今回最多となる7件が採択された大阪大をはじめ、東京大(6件)や京都大(6件)など、旧帝大をはじめとする国立大の優位は揺るがなかった。

■組織的教育

21世紀COEで採択された多くの大学がふるい落とされる中、新規参入を果たした拠点が9件ある。

大学として初めて採択された関西大学。キャンパスの入り口には「グローバルCOEプログラムの人文科学分野で採択」と書かれた垂れ幕が誇らし気に掲げられた。「COEは学生や教員にとり、大学の独自性を感じるシンボルとなる」と、河田悌一学長は顔をほころばせる。

研究拠点に選ばれたのは「東アジア文化交渉学」。日本や中国、朝鮮半島など東アジアを、文化交流の複合体としてとらえ直す。リーダーで中国出身の陶徳民・文学研究科教授は「中国研究が中心だった従来の東アジア研究に新風を吹き込みたい」と意気込む。

博士課程の学生は、英語以外にアジア言語2か国語が必修。若手研究者による国際フォーラムの運営などを通じ、世界への発信力を磨く。

河田学長は「学問だけでなく、国際機関などで主導的役割を果たせる人材を育てたい」と話す。

国内最速のスーパーコンピューター「TSUBAME」を持つ東京工業大からは、「計算世界観の深化と展開」をテーマとする拠点が新規採択された。素粒子反応や細胞内のたんぱく質の働きなど、あらゆる現象を「計算」と考えて研究するという、世界的にも例を見ない、新しい領域開拓に挑戦する。

幅広い分野から学生を集めて、組織的に育てる仕組みを作った。博士課程の学生が、自分の専門外の研究室に最低2か月間滞在する「出向修行制度」も取り入れた。従来は、1人の教授から指導を受ける一種の徒弟スタイルだったが、「他流試合で視野や人脈を広げることが、研究者の成長に重要」と、リーダーの渡辺治教授は狙いを話す。

■経済的支援

倍増した資金を活用して、大学院生や若手研究者への経済的な支援を充実させる大学も多い。文部科学省が6月にまとめた各拠点の概要でも、「本補助金の大きな部分を学生の生活支援に充てる」(東京大)、「年間12名程度のポスドク(博士研究員)を雇用」(慶応大)、「博士後期課程学生に、リサーチアソシエイト(研究協力員)として給与」(大阪大)――など、若手がアルバイトなどをしなくても、研究に専念できる環境整備が強調された。

グローバルCOEの拠点選定にあたった専門委員会の委員長を務めた野依良治・理化学研究所理事長は「国内だけでなく、海外から優秀な学生を集めるためにも、若手への経済的な支援の充実は欠かせない。拠点を手本として、わが国の大学院全体の改革が進むよう期待している」と話している。(原田信彦)