『毎日新聞』2007年6月16日付

グローバルCOEプログラム:28大学院を選考 近畿、中国、四国は22件−−文科省


◇年2億6000万円を交付

優れた大学院を支援する文部科学省の「グローバルCOE(卓越した拠点)プログラム」の選考結果が15日、公表された。申請された国公私立大111校、計281件のうち、28校63件が認められた。今年度から5年間、平均で年2億6000万円が交付される。

選考された63件のうち、大阪大7件▽東京大6件▽京都大6件など国立大が約8割に当たる50件を占めた。私立は早稲田大4件▽慶応大3件▽立命館大2件▽関西大1件の4校で、公立は静岡県立大▽大阪市立大▽兵庫県立大がそれぞれ1件ずつ選ばれた。

同プログラムは、02年度から始まった「21世紀COEプログラム」の後継として今回初めて審査が行われた。「21世紀」よりも採択件数を半減させて、交付金額を倍増した。

審査は、「グローバルCOEプログラム委員会」(委員長=野依良治・理化学研究所理事長)が生命科学や人文科学など5分野から行った。会見した野依委員長は「(採択された拠点には)競争的環境の醸成など、大学全体への波及効果も期待している」と述べた。【高山純二】

◇「タコつぼからの脱却を」−−近畿、中国、四国で22件

文部科学省が15日発表した「グローバルCOEプログラム」で、近畿、中国、四国からは10大学22件の研究が採択された。従来の枠にとらわれない、斬新でユニークな研究が並ぶ。

◆神戸大「統合的膜生物学の国際教育研究拠点」=生命科学

細胞の内外を隔てる生体膜に関する研究・教育拠点づくりを目指す。生体膜はこれまで、構成するたんぱく質、脂質について個別に研究されていた。計画では「統合的膜生物学」をキーワードに、分子生物学や細胞生物学などが連携、細胞運動などにおける生体膜の機能の全容解明に取り組む。リーダーの片岡徹教授は「生体膜の異常が原因で起きるがんや動脈硬化などのメカニズム解明に役立てたい」と述べた。

◆京都大「物質科学の新基盤構築と次世代育成国際拠点」=化学、材料科学

温暖化や持続的発展といった複雑で地球規模の問題などに対応するため、従来の形式を転換。基礎化学から材料科学まで横断した「統合物質科学」という領域を新設し、「新物質・新材料を創造する科学」としての化学を複合的視点から見る感覚を養う。リーダーの澤本光男教授は「他分野に影響を与える領域を創設し、幅広い視点を持った国際的に通用する若手を育てたい」と意気込む。

◆大阪大「次世代電子デバイス教育研究開発拠点」=情報、電気、電子

発光ダイオードやカーボンナノチューブなどで、大学の基礎研究が企業で実用化されるケースは少ない。現状を変えるため、互いの研究をつなぐ能力ある研究者を育てる。研究室単位でなく、若手のアイデアを基に、複数の研究室と企業が共同で研究を進め、幅広い視野を養う。元東芝研究者の谷口研二・工学研究科教授は「タコつぼ的と言われる博士教育を変え、世界に通じる研究者を育てたい」と話す。

◆関西大「東アジア文化交渉学の教育研究拠点形成」=人文科学

東アジアの文化を多様な国々の視点から複合的にとらえる「文化交渉学」という学問分野を開拓。研究者として活躍できる人材育成を目指し、英語とアジアの2カ国語ができるように教育する。関大は世界最大級の中国の古典データベースを持ち、東アジア文化の学術資源が豊富。陶徳民・文学部教授は「多言語での情報発信力をつけ、アジアで活躍できる人材を育てたい」と話した。

◆愛媛大「化学物質の環境科学教育研究拠点」=学際、複合、新領域

研究の軸は、アジアを中心に、陸海の汚染物質の移動を数値モデルで解明▽汚染物質の生態系内の動き▽遺伝子レベルで野生生物への影響を解明。北極と南極を含む全世界で、半世紀にわたり集めた1200種10万点の冷凍標本がある「生物環境試料バンク」は貴重で、大きな特色。途上国からも多くの留学生を受け入れており、リーダーの田辺信介教授は「環境分野でアジア最高の研究拠点を形成したい」。【野田武、小川信、岩嶋悟、古谷秀綱】

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◆グローバルCOEに採択された研究◆

大学         リーダー  研究内容

 【生命科学】
東北          大隅典子 脳神経科学を社会へ還流する教育研究拠点
群馬          小島至  生体調節シグナルの統合的研究
東京          宮下保司 生体シグナルを基盤とする統合生命学
東京工業        濡木理  生命時空間ネットワーク進化型教育研究拠点
名古屋         近藤孝男 システム生命科学の展開・生命機能の設計
京都          阿形清和 生物の多様性と進化研究のための拠点形成
大阪          柳田敏雄 高次生命機能システムのダイナミクス
神戸          片岡徹  統合的膜生物学の国際教育研究拠点
奈良先端科学技術大学院 島本功  フロンティア生命科学グローバルプログラム
九州          藤木幸夫 個体恒常性を担う細胞運命の決定とその破綻
熊本          田賀哲也 細胞系譜制御研究の国際的人材育成ユニット
兵庫県立        吉川信也 ピコバイオロジー・原子レベルの生命科学
慶応          末松誠  In〓vivoヒト代謝システム生物学拠点

 【化学、材料科学】
北海道  宮浦憲夫 触媒が先導する物質科学イノベーション
東北   山口雅彦 分子系高次構造体化学国際教育研究拠点
東北   後藤孝  材料インテグレーション国際教育研究拠点
東京   中村栄一 理工連携による化学イノベーション
東京工業 竹添秀男 材料イノベーションのための教育研究拠点
東京工業 鈴木啓介 新たな分子化学創発を目指す教育研究拠点
信州   平井利博 国際ファイバー工学教育研究拠点
名古屋  渡辺芳人 分子性機能物質科学の国際教育研究拠点形成
京都   澤本光男 物質科学の新基盤構築と次世代育成国際拠点
大阪   福住俊一 生命環境化学グローバル教育研究拠点
大阪   掛下知行 構造・機能先進材料デザイン教育研究拠点
九州   君塚信夫 未来分子システム科学
早稲田  黒田一幸 「実践的化学知」教育研究拠点

 【情報、電気、電子】
北海道    有村博紀  知の創出を支える次世代IT基盤拠点
東北     安達文幸  情報エレクトロニクスシステム教育研究拠点
筑波     山海嘉之  サイバニクス:人・機械・情報系の融合複合
東京     保立和夫  セキュアライフ・エレクトロニクス
東京工業   渡辺治   計算世界観の深化と展開
東京工業   小山二三夫 フォトニクス集積コアエレクトロニクス
豊橋技術科学 石田誠   インテリジェントセンシングのフロンティア
京都     田中克己  知識循環社会のための情報学教育研究拠点
京都     野田進   光・電子理工学の教育研究拠点形成
大阪     西尾章治郎 アンビエント情報社会基盤創成拠点
大阪     谷口研二  次世代電子デバイス教育研究開発拠点
慶応     大西公平  アクセス空間支援基盤技術の高度国際連携
早稲田    後藤敏   アンビエントSoC教育研究の国際拠点

 【人文科学】
北海道    山岸俊男 心の社会性に関する教育研究拠点
東京     島薗進  死生学の展開と組織化
東京     小林康夫 共生のための国際哲学教育研究センター
東京外国語  峰岸真琴 コーパスに基づく言語学教育研究拠点
お茶の水女子 耳塚寛明 格差センシティブな人間発達科学の創成
名古屋    佐藤彰一 テクスト布置の解釈学的研究と教育
京都     子安増生 心が活きる教育のための国際的拠点
大阪     小泉潤二 コンフリクトの人文学国際研究教育拠点
慶応     渡辺茂  論理と感性の先端的教育研究拠点形成
早稲田    竹本幹夫 演劇・映像の国際的教育研究拠点
立命館    川嶋將生 日本文化デジタル・ヒューマニティーズ拠点
関西     陶徳民  東アジア文化交渉学の教育研究拠点形成

 【学際、複合、新領域】
東北   山口隆美  新世紀世界の成長焦点に築くナノ医工学拠点
東京   岡芳明   世界を先導する原子力教育研究イニシアチブ
横浜国立 松田裕之  アジア視点の国際生態リスクマネジメント
京都   杉原薫   生存基盤持続型の発展を目指す地域研究拠点
大阪   野村泰伸  医・工・情報学融合による予測医学基盤創成
鳥取   恒川篤史  乾燥地科学拠点の世界展開
愛媛   田辺信介  化学物質の環境科学教育研究拠点
長崎   山下俊一  放射線健康リスク制御国際戦略拠点
静岡県立 木苗直秀  健康長寿科学教育研究の戦略的新展開
大阪市立 佐々木雅幸 文化創造と社会的包摂に向けた都市の再構築
早稲田  天児慧   アジア地域統合のための世界的人材育成拠点
立命館  立岩真也 「生存学」創成拠点