『読売新聞』2007年6月13日付

近大「マグロ」九大「大吟醸」、大学開発商品は「知の結晶」


近畿大のクロマグロ、九州大の大吟醸酒、東京大の泡盛など、大学ブランドの商品が次々と生まれている。

九州大で先月、シンポジウム「すごい!大学ブランドグッズ」が開かれ、大学の特色を生かした商品が紹介された。受験生に大学をアピールしたり、教員や学生の意識を高めたりする狙いがあるようだ。

大学ブランド商品は、国立大学の独立法人化もあって、近年増加傾向だ。シンポジウムには東京大と新潟大、近畿大、島根大、九州大の5大学が参加した。

九州大の佐藤剛史・助教は「商品は大学を一般の人にアピールする顔。互いに情報交換して大学ブランドの今後の方向性を探りたい」とシンポジウムを開催した理由を話す。

大学ブランド商品は、各大学が培ってきた知の結晶だ。世界初の完全養殖に成功したクロマグロを東京や大阪の有名デパートで販売している近畿大学水産研究所の村田修・副所長は「成功まで30年以上も研究を続けた。ヒラメやイシダイ、シマアジ、クエなどの人工孵化(ふか)と養殖に、国内でいち早く成功してきた技術の蓄積が下支えになった」と強調する。

環境保護と組み合わせた商品が多いのも新しい傾向だ。九州大は新キャンパス周辺の里山の自然を守るため、「飲めば飲むほど緑が増える」をキャッチフレーズに、大学発のNPO法人と地元の酒造会社が共同で、「九州大吟醸」プロジェクトを展開している。

酒米栽培や酒造りに学生が参加、清酒「九州大吟醸」の売り上げの5%は環境保全活動費として植樹などに使われている。

新潟大は水田に紙を敷き、除草剤を使わずに雑草を防ぐ「再生紙マルチ農法」を研究しており、この米で日本酒「新雪物語」を作っている。

ただ、多くの大学は、アイデアはあっても、実際に商品化したり、販売先を確保するのに苦労しているのが現状だ。酒類の場合、学内の販売でも免許を取得する必要がある。

一方、抜群のブランド力をアピールしたのが東京大だ。学内に保存されていた戦前の黒こうじ菌を使った泡盛「御酒(うさき)」や、大手の食品、化粧品会社と共同でサプリメント、香水などを次々に開発している。昨年度の総売り上げは1億3000万円に達した。

ブランド戦略に詳しい高田仁・九州大准教授は「少子化もあり、今後、大学間の競争はより激しくなる。総合的なブランド力を向上できない大学は生き残れない。消費者が直接手にする商品は、大学のイメージを伝える手段として非常に有効だ」と話している。(長谷部耕二)