教育再生会議第二次報告関連社説集
教育再生2次報告 深みに欠け問題も多い 『秋田魁新報』社説 2007年6月6日付
教育再生会議報告 具体的効果見える改革案示せ 『宮崎日日新聞』社説 2007年6月6日付

『秋田魁新報』社説 2007年6月6日付

教育再生2次報告 深みに欠け問題も多い


深みに欠ける上、問題の多い報告となった。教育再生会議が安倍晋三首相に提出した第2次報告のことである。

保護者らの関心の高い学力向上について、報告は土曜授業も可能とした。授業時間数の10%増を確保するためである。

勉強しないことには学力はつかない。しかし、授業時間の増加が学力向上に直結するわけでもない。それは国際的に評価の高い国の方が授業時間が短い傾向にあることからも分かる。

国際学力調査であぶり出されるのは、日本の子供の学習意欲の低下と低学力層の拡大だ。この根本問題に切り込まないで、授業時間を増やせば解決につながるかのような提言は、やはり浅薄のそしりを免れない。

もっと問題なのは土曜授業が定着すれば、完全学校週5日制が事実上、廃止になる点だ。「ゆとり教育」の功罪がほとんど検証されないまま、なし崩し的に、授業ばかりか学校生活の在り方が変わることになる。

完全学校週5日制が導入されたのはつい5年前、平成14年のことだ。教育がこんなにコロコロ変わるようでは、子供や保護者はもちろん、教育現場に混乱が生ずるのも当然だ。

教育の現状を綿密に分析し、問題点を精査する。その上でこう改めればこれくらいの効果が期待できる—。「ゆとり教育」を見直したいというのなら、そんな正々堂々とした理論構成があってしかるべきだろう。

現在の「道徳の時間」を徳育として教科化する点にも首をかしげざるを得ない。

さすがに点数評価はしないことで落ち着いた。しかし、教科となれば検定教科書を使うことになる。一定の価値観を押し付ける結果に陥らないかという懸念がぬぐえないのだ。

例えば「国を愛する態度」。何をもって適切とするのか。政権の移り変わりによって、これこそ「唯一正しい在り方」と規定される恐れもある。

そもそも現在の「道徳の時間」はどこがどのように悪いのか徹底分析された形跡はない。分析欠如は学力向上策としての土曜授業復活と相通じる。

安倍首相の教育改革の眼目は「学力向上と規範意識の育成」だ。教育再生会議の報告が生煮えのまま公にされる背景に、近づく参院選をにらみ、とにかく実績がほしい安倍首相の政治的思惑が見え隠れする。

教育を政治の具としてならないことは、いまさら言うまでもない。2次報告の裏の意味としてこの点も見逃せない。

2次報告が改革を掲げる割に、その裏づけとなる財政面に及び腰なことも指摘しておかなければならない。

報告は「教育予算は効率化を徹底し、めりはりをつけて教育再生に真に必要な予算の財源を確保」と表現するにとどまる。

安倍首相自身、国内総生産(GDP)に占める教育費支出が先進国で最低レベルにあるのに、枠拡大には消極的だ。

国全体の財政改革は不可欠である。しかし、教育改革のメニューを並べるだけでは実現性は保障されない。安倍首相の教育重視の本気度は、財政面の裏づけに踏み込めるかどうかで測られるといってもいいだろう。
『宮崎日日新聞』社説 2007年6月6日付

教育再生会議報告 具体的効果見える改革案示せ


政府の教育再生会議は、第2次報告をこのほど安倍晋三首相に提出した。

安倍首相が教育改革を政権の最重要課題に位置付ける中、第1次報告と同様、「学力向上」や「規範意識の育成」などが大きな柱になっており、政府に取り組みを促している。

しかし、注目の教育予算については、拡充や財政計画を伴う長期展望など踏み込んだ内容は示されておらず、財政再建路線にあっては教育の分野も聖域化せず、二の足を踏んでいる。

あらためて示された授業時間増や学校選択制など改革の処方せんも、本当に有効かについての論拠は十分とは言い難く、説得力に欠けている。

■迷走するゆとり教育■

報告で同会議は、必要に応じた土曜日授業実施などでの授業時間数10%増や、小中学校の徳育(道徳教育)の「新たな教科」への格上げを含む充実など、教育再生に向け本年度中に学習指導要領を改訂するよう打ち出した。

この中で、授業時間数増を具体化した土曜授業の復活は今回の目玉となっているが、授業時間と学力との相関関係ははっきりしておらず、なぜ今になってとの疑問が浮かぶ。

そもそも、現行の学校週5日制は、教育を過度に学校に依存することを解消して、家庭や地域社会が一体となって子供の教育に当たることを目指して取り組んだものではなかったか。

ところが最近の学力低下批判を受け、ゆとり教育を見直そうというのが今回の報告の背景にある。しかし、現行学習指導要領の下で、以前より学力が低いという具体的なデータはない。

報告からは完全学校週5日制のなし崩し的な見直しとしか受け取れず、ゆとり教育を見直すというなら、学力のどのような点に問題があるのかを明確にすることが先ではないか。

■“言いっ放し”の提言■

もう一つ気になるのが、「規範意識の育成」を強調している点だ。

徳育を教科化するというが、教科となれば検定教科書も必要になるし、それ以前に微妙な問題を内包している。

今国会で審議されている教育改革関連3法案の中でも、教育目標に「国を愛する態度」や「公共の精神」が盛り込まれているが、何が国を愛する態度で、正しい精神を誰が判断するのかの議論は積み残されたままだ。

こうした現状では、国が一定の価値観を国民に押しつける危険性をはらんでおり、教科書検定で国が正しい記述かをチェックするなどということは決して許されるものではない。

当初予定していた子育ての心構えを説いた“親学指南”が、世論の批判を浴びて今回の報告に盛り込めなかったのは当然の結果。心構えを説くこと自体、偏った押しつけで教育の改善につながるという発想は安直すぎる。

このほか報告では、保護者や児童、生徒らが就学先を選べる学校選択制については、実績に応じた予算配分実施も明記して、制度導入促進を打ち出した。学力向上策の一環で学校間の競争を促しているが、一方で格差を助長する要因にもなりかねず、教育の質を高める効果は今のところ不明確だ。

今回の報告を受け、安倍首相は「必要なものは特に優先的に取り組むよう指示する」としている。ただ、具体的な根拠がないままの“言いっ放し”の提言では教育現場に混乱をもたらすだけで、報告が掲げる「教育新時代」の言葉だけが独り歩きする。