『日経ネット関西版』2007年6月4日付

大阪府立大・市立大、魅力向上へ連携探る──協議会スタート


関西を代表する公立大学の大阪府立大と大阪市立大が、4月から包括提携に向けて本格的に動き出した。全入時代を迎えた大学サバイバル競争の流れに加え、行政改革の必要を迫られた府と市の要請にも導かれた格好だ。関西経済界や行政関係者らの間では「合併・統合」を求める声もある。統合に慎重な両大は「公立大の提携モデルにする」と意気込むが、提携内容は「目新しさに欠ける」との指摘も。両大の将来像は府市の行革も絡んで暗中模索が続いている。

「今まで話し合いの機会がなかったのが、おかしかった」――。大阪府立大と大阪市立大の「包括連携協議会」の第1回会合が開かれた5月下旬。府立大の南努学長は両校の提携への意気込みを熱く語った。

市立大の金児暁嗣学長も「地理的に近くて歴史もあり、互いの大学力のアップにつながる。公立大で初めての試みにしたい」と強調。“蜜月ぶり”をアピールした両学長の発言に、「公立大の存在感向上につながる」と関係者は大きな期待を寄せる。

●5テーマを柱に

両大の提携分野は「学生の活動」「学術研究」「地域貢献」「国内外の機関との提携」など5項目の大枠テーマが柱。初会合では具体的に、(1)フランスで共同の語学研修(2)シンガポールの大学と連携した共同インターンシップ(3)図書館の相互利用――の3つの提携プロジェクトを決定した。

このほか、教職員の人事交流や単位互換制度の拡充、合同のサテライトキャンパスの設置などが検討課題に挙がった。今後は1、2カ月に1回のペースで協議会を開催。両校の学長や教授陣らがさらに具体的な提携内容を詰める。

“華々しく”始まった両大の連携協議会だが、学生や関係者の間では「語学研修やインターンは既に実施している。提携プロジェクトは目新しさに欠ける」との指摘が聞かれる。「府立大の授業を取ってみたい」と話す市立大工学部4年の岡村明彦さん(21)も「具体的なプログラムが見えてこない。(提携が)かけ声倒れには終わってほしくない」と不安を口にする。

確かに提携の具体的な内容が白紙の状態で提携話が先走りした感は否めない。背景には財政難で行政改革を進める府と市の双方から両大提携への強い要請があったためだ。経済界や外部の有識者から叫ばれる「統合論」も両大の提携の動きに微妙な影を落としているようだ。

大阪市の市政改革推進会議の委員長、上山信一慶応大教授が昨年12月に「連携や統合の可能性はないのか」と発言したのをきっかけに提携話は急展開した。2 月には、大阪府の太田房江府知事と大阪市の関淳一市長が「時代の最先端を行く連携が必要。大学間で協議を進める」と発表。府市トップの発言に押される格好で、4月に両大は包括提携を打ち出した。

両学長は合併・統合については「考えていない」と慎重な姿勢を崩していない。一方で府や市は「連携の成果をみて統合を検討する」(府政策企画部)と認識や発言に“ずれ”がみられる。大阪商工会議所も2月に発表した提言で府と市が実施する「二重行政」の例として両大を列挙、統合論に期待を寄せた。

●将来像なお模索

自治体側には「府市連携の目に見える成果を作りたい」(府幹部)との思惑があるようだ。「連携の効果で大幅に予算を削減できる」との狙いも見え隠れする。とりわけ大阪市は、関市長が打ち出した市政改革の基本方針で2010年までの5年間に経常経費の20%削減を公約に。市立大に補助する運営交付金は、07年度予算で前年度に比べ約8億円少ない160億円に減らした。

“理性と自治の府”を標榜(ひょうぼう)する大学側は「行政改革や予算削減のための統合論にはくみしない」(府立大の南学長)と主張。両学長は提携を「あくまで大学の魅力アップのため」とする。事務作業の統一化など経費節減に結びつく内容は盛り込まなかった。

府と市は11年、12年からそれぞれ両大に対し中期目標で大学の改革案を示す考え。提携が始まった両大の将来像はまだ霧の中にある。
(大阪社会部 北角裕樹)

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