『毎日新聞』社説 2007年6月2日付

教育再生2次報告 もっと時間かけ練り上げよう


教育再生会議の第2次報告は、学力向上をうたって「ゆとり教育」の否定的見直しを打ち出した第1次報告を具体化した。規範性を高めるため道徳を新しい教科に昇格させ、「効率化を徹底し、かつメリハリをつける」財政で予算や給与に差異をつけ、世界トップランクの大学・大学院を育て上げようという。

また小学校の英語教育導入や高校の奉仕活動必修化、さらには「親の学びと子育て応援社会」の実現と、提起する諸施策は実に多岐にわたる。1月の1次報告以降わずか4カ月余で十分に論じ尽くしたとは思えない。

再生会議は1次報告で日本の教育状況を「公教育の機能不全」と表現し、矢継ぎ早に多様な問題提起をしてきた。それには現実の問題が背景にあり、根拠なく諸病状を訴える“不定愁訴”ではない。反発が強く大幅にトーンダウンした「親学」にしても、現実に起きている親による事件や給食費不払いなどの実態を契機としている。

しかし、だからといって、現状がひとくくりに短絡的に否定されてよいわけではない。

報告は学校の授業時間を1割増加させる方策として「教育委員会、学校の裁量で、必要に応じ、土曜日に授業を行えるようにする」とした。「学校週5日制を基本としつつ」と前置きはしているが、公立の義務教育で学校選択制が広がる中、引きつけ策として土曜授業再開に弾みがつくのは間違いない。それは学校5日制をなし崩しにまひさせていくことになる。

5日制は、学校・家庭・地域が連携して「生きる力」の育成を目指す「ゆとり教育」の土台であり、その実施には長い論議と試行があった。92年に月1回で始まり、段階を踏み完全5日制に移行するまでに10年をかけた。

必要な修正や改廃はすべきだが、それには、問題点は何か、何が原因か、問題を繰り返さないためにはどうするか−−などを徹底的に論じ合い、ほぼ共通した認識を分かち合うのが前提だ。

また道徳は、全教科学習を通じて学ぶことを戦後の基本的な理念としてきた。これを新教科にするなら、道徳で検定教科書を使うことの意味の重大さなどについて丁寧に論を尽くす必要があるが、報告にその気配は感じられない。

再生会議だけでなく、今の政財界各分野にわたってかまびすしい教育改革論議全体がこうした慌ただしさを帯びている。現場は戸惑うばかりだ。

例えば、教育関連3法改正を審議している参院文教科学委員会で与党推薦参考人が教員免許更新制について「10年に1度の講習で一律に免許を更新することが教員の資質向上策としてどれほど有効性があるのか疑問だ。まだ審議すべき余地は大きい」と指摘したことなどは象徴的だ。

安倍晋三政権が掲げる「最重要政策」だからこそ時間をかける。そう腹を据えよう。再生会議の報告でお墨付きを得たとばかり駆け出すような実施は、長く悔いを残す大失策を招きかねない。