『朝日新聞』社説 2007年6月2日付

教育再生会議―一から出直したら


21世紀の日本にふさわしい教育体制を構築し、教育の再生を図るため、教育の基本にさかのぼった改革を推進する。

これが、安倍首相によって内閣に設けられた教育再生会議の目的である。

その高らかな宣言と、以下の2次報告書の内容との落差は、どうしたことか。

・夏休みや土曜授業を活用して授業時間を1割増やす。

・すべての子どもにわかりやすく、魅力ある授業にするため、教科書の分量を増やし、IT化などを推進する。

・徳育を教科化する。

昨秋発足した再生会議は、各界の有識者17人が起用された。学力と規範意識を高めるという狙いに、異論は少ないだろう。私たちは社説で、斬新で骨っぽい提言を求めた。

だが、今年初めの1次報告書に続いて、今回もやはり期待はずれだった。

長い議論を経て学校が週休2日制になったのは、ほんの5年前のことだ。学力が低下したから土曜授業で補う、というのは安易すぎないか。

再生会議の席上、陰山英男・立命館小学校副校長は、土曜授業の復活に反対したといい、会議後、「何時間かけてこれをやらせれば、こんな風に学力が上がるとかそんなもんじゃない」と語った。現場を知る人の率直な思いだろう。

学力をめぐる最大の問題は、できる子とできない子の格差が広がっていることだ。授業についていけない子を、時間数を増やすだけで救えるとは思えない。

教科書を厚くしてIT化を進めれば、魅力的な授業になるというのも、いささか的はずれではないか。

「道徳の時間」を徳育として教科化することにも疑問がある。検定教科書を使うことになれば、政府の考える価値観を教室で押しつけることになりかねない。

規範意識で思い起こすのは、光熱水費問題などでの故松岡前農水相の説明と、かばい続けた首相の態度だ。子どもが規範を学ぶのは、教室だけではない。

それにしても、名だたる有識者がそろいながら中身が薄っぺらになってしまったのはなぜだろう。会議の進め方とメンバー構成に問題がありはしないか。

議事録を読む限り、委員は印象論や体験をもとに提言することが多い。だが、その提言の良しあしをデータに基づいて検証し、論議を深めている様子は伝わってこない。

その例が「母乳で育児」を提言しようとした「親学」だろう。きちんと論議を詰めていないので、批判されると、あっさり引っ込めてしまった。

再生会議はさらに論議を重ね、年末に3次報告を出すという。それなら、せめて二つの提案をしたい。

会議を公開する。論議に緊張感が生まれ、国民の関心も呼びやすくなる。

オブザーバーとして教育研究の専門家を置く。教育の歴史の中で、提言の良しあしを検証することができるだろう。