【声明】 民主主義に背を向けた国民投票法の可決・成立に抗議する

 去る5月14日、与党が数の力で成立させた国民投票法は、憲法
96条の憲法改正条項を具体化するものとされている。しかし18
項目もの付帯決議がついたことに示されるように、本法は多くの問
題を抱えている。本法は国家の根幹を定める憲法の改正手続きを定
めるものであり、他の法律にも増して国民の理解と納得を必要とす
る。しかしながら与党は、審議を通じて明らかになった数々の問題
点を解決しないまま拙速に本法を成立させた。われわれは、今国会
での国民投票法の拙速な可決・成立に強く抗議する。

 大学という教育研究の場に身を置くわれわれは、本法103条の
「教育者、公務員の地位利用による」運動参加を禁じるという規定
をとくに容認できない。100条で「表現の自由、学問の自由及び
政治活動の自由…を不当に侵害しないように留意しなければならな
い」と定め、付帯決議でも「意見表明の自由、学問の自由、教育の
自由等を侵害することとならないよう特に慎重な運用を図るととも
に、禁止される行為と許容される行為を明確化するなど、その基準
と表現を検討すること」とわざわざ明記せざるをえなかったことは、
この条項に問題があることを国会自身が認めていることに他ならな
い。それに、何が「地位利用」として禁止されるのかさえも明確に
示されていない。本来、国民投票運動においては自由な議論が活発
になされるべきであるのに、この規定は言論活動に萎縮効果を与え、
ひいては民主主義を萎縮させる。また、国民投票を前にして、大学
教員が講義等の教育活動のなかで9条をはじめとする現行憲法の意
義を論じることができなくなるおそれがあり、この規定は学問の自
由や表現の自由に対する侵害でもある。

 また、最低投票率の規定がないことも看過できない。「低投票率
により憲法改正の正当性に疑義が生じないよう、憲法審査会におい
て本法施行までに最低投票率制度の意義・是非について検討を加え
ること」との付帯決議にもあるように、ことは改憲の正統性にかか
わっている。低投票率であっても「有効投票の過半数」の賛成で改
憲が成立するならば、有権者の1〜2割の賛成で改憲という事態も
起こりうるのであり、民主主義は掘り崩される。このような深刻な
問題を抱えているにもかかわらず、十分な審議をしないで本法を通
したのは、将来に禍根を残す重大な誤りである。

 同様に、本法2条に定められている実施までの期間が短すぎるこ
とも問題である。本法では、憲法を変えるという重大な問題に際し
て、発議から投票まで最短2カ月で済んでしまう。これでは広く国
民に議論するための時間を与えることにならず、国民投票という形
式のもとで実際には国民は軽んじられる。

 このように、国民投票法は慎重な議論を要する問題を数多く抱え
ているにもかかわらず、中央公聴会の開催など国民的論議を尽くす
こともなく、付帯決議という形で多くの問題点を先送りしたまま、
きわめて短期間に本法を可決・成立させたことはまことに拙速と言
わざるをえない。

 確認しておこう。国民投票という民主主義を具体化するべき場面
において、国民に議論する時間を与えないばかりか、国民相互の自
由な議論を押さえ込み、いくら投票率が低くてもかまわないことと
する。このように主権者=国民を軽視する姿勢が本法を貫いている。
本法のねらいは、国民の認識が深まって批判の声が強まることのな
いうちに改憲を成立させるしくみづくりにある。

 憲法改正手続法の国民投票に関する規定が施行されるのは公布か
ら3年後であり、衆参両院に設置される憲法審査会はこの施行まで
憲法改正案の提出・審査を行わないとされている。われわれは、こ
の3年の間に、国民の意思を真に反映する国民投票の制度にするべ
く、本法を抜本的に見直すことを強く要請する。

2007年5月26日
群馬大学教職員 九条・平和の会世話人一同