教育改革3法案 関連社説集

教育3法改正 問題の掘り下げが足りない 『毎日新聞』社説 2007年5月22日付
「現場の声」は届いたのか/教育3法案参院へ 『東奥日報』社説 2007年5月20日付
教育改革3法案 教育を政治的に扱うな 『秋田魁新報』社説 2007年5月20日付
教育3法案 成立急がず論議尽くせ 『信濃毎日新聞』社説 2007年5月22日付
教育改革3法案/国の統制より環境整備を 『北日本新聞』社説2007年5月20日付
教育関連法案  生煮え、審議を尽くせ 『京都新聞』社説 2007年5月19日付
教育3法案 現場の不安除く議論必要 『山陽新聞』社説 2007年5月19日付
教育3法案 現場の懸念は解消されていない 『愛媛新聞』社説 2007年5月19日付
【教育3法案】子どものためなのか 『高知新聞』社説 2007年5月19日付
教育改革3法案・国の関与強化でいいのか 『琉球新報』社説 2007年5月19日付
[教育3法案]ビジョン見える論議を 『沖縄タイムス』社説 2007年5月22日付

『毎日新聞』社説 2007年5月22日付

教育3法改正 問題の掘り下げが足りない


教育改革関連3法案(学校教育法、地方教育行政法、教員免許法の各改正案)の国会審議が参議院に舞台を移した。これまでのペースでいけば今国会で成立する見通しで、7月の参院選挙で安倍晋三政権の「成果」として掲げられることになる。

将来を託す人づくりにかかわる法案審議なのに、教育現場にどのような変化をもたらし、何を目的にそれを推進するのか、具体的な提示や議論があまりに乏しい。

改正案では、義務教育の目標として「国や郷土を愛する」「規範意識や公共の精神」などを明記し、昨年成立した改正教育基本法を裏づける。学校運営に関しては副校長、主幹教諭などの管理・指導的ポストを創設。教員免許を10年の更新制にし、その度に30時間の講習を義務づける。

そして教育委員会に対しては、児童生徒に緊急な保護を要する事態や教育を受ける権利の侵害がある場合に、文部科学相が指示や是正要求の権限を持つ−−。

免許更新制や教育委員会への国の権限については、教員不祥事やいじめ、高校の大量履修漏れなど現実に相次いだ問題が推進論の「追い風」になった。

では、それによって何がどう変わるのか。あるいは、どういう場合が想定の事態にあてはまるのか。これまで政府はまだ十分具体的に示し得たとはいえない。

不祥事やいじめ、受験準備で科目履修をごまかすことは、現行法令や制度に不備があって起きたわけではない。不適格教員のチェック機能は制度上あるし、学校運営に管理職的なポストを増やすことにどれだけ効果があるかにも現場には疑問の声が少なくない。

また、履修漏れは全国の主だった教委にキャリア官僚を配置する文科省が「まったく関知しなかった」といえるはずはなく、教委をにらむことによって解決するような浅い問題ではない。

現行制度で対応や防止ができることなのに、なぜこう次々と問題が起きたのか。社会の価値観や風潮の変化なども踏まえた入念な検証と、そこから得る貴重な教訓や情報を全国の教育現場が共有、活用できるようにすべきだろう。

それを十分しないまま新たなかたち(法)を先行させるのは、無用な不信や反発を生じ、本末転倒になりかねない。政府の教育再生会議や財界も含めた一連の教育改革論議全般にもいえることだ。

参院では、もっと現実に照らし、具体的な想定を示したうえでの審議を望みたい。例えば、教員免許更新は子供の教育にそぐわない教員のチェックや是正にも有効といわれるが、講習では何をやり、どう効果を上げるのか。教委への権限発動についても「最小限にとどめたい」というだけでなく、拡大されないようどう歯止めをかけるか。省令や運用によってというのではなく、細かに想定ケースを挙げ、論議を深めてほしい。

事は教育だ。いうまでもないが、「成果」として選挙のショーウインドーに飾るために法改正するのではないはずだ。

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『東奥日報』社説 2007年5月20日付

「現場の声」は届いたのか/教育3法案参院へ


教員免許更新制などを盛り込んだ教育改革関連三法案が、衆院本会議で可決され参院へ送付された。安倍内閣が最重要法案と位置づけている三法案が今国会で成立する見通しとなった。

安倍晋三首相は、十七日の衆院教育再生特別委員会の締めくくり質疑で「教育改革に対する国民の要請は強く、私の内閣の使命は教育再生に取り組むこと」と、あらためて言明した。

首相は、三法案の成立を期すことは緊急の課題で、拙速ではないと強調した。

しかし、地方公聴会では、学校教育の現場がさまざまな問題を抱えながらも、重責を果たしているとの意見が出た。学校や教員が元気になれる方策を求める声も上がっている。

こうした声が政府に届いているのだろうか。もっと耳を傾ける必要があると思う。参院での審議が、おろそかにならないように願いたい。

五月九日に福岡市で開いた地方公聴会で、ある町の教育長が次のような趣旨の発言をしたという。

「現在の学校は再生しなければならないほどひどいものか。大部分の学校や教員は一生懸命頑張って成果を上げている。教育界は風評被害に遭っている」

いじめによる自殺問題などで、教育委員会や学校・教員が保護者への対応を含めて的確でない例があった。しかし、突出した事件を引き合いにして、全体に問題があるかのように論じるのはおかしい。

地方教育行政法改正案では、教委の法令違反や怠りにより、緊急に生徒らの生命、身体保護をする必要が生じた場合、教委に対する文科相の是正指示権を新たに規定した。

国が権限を振り回そうというのではない−と文科省はいうが、国が関与する前に現場で対処できることが多いはずだ。国が乗り出したからといって、いじめ問題などが解決するわけでもない。地方の警戒感が根強い。もっと説明すべきだ。

県内の公立小中高校などの教員の八割以上が、日常の勤務について「とても忙しい」「忙しい」と感じている。県教委が調査した数字だ。超過勤務が常態化して、子どもと触れ合う時間が足りない。そんな厳しい現実を映している。

「ゆっくり学級の子と過ごしたい」「同僚と教育について語り合う時間もなく何か満たされない」。学校教育に対する要求の多様化、事務作業の増加などで教員は忙しくなるばかりだ。

学校教育法改正案では、副校長や主幹教諭など管理的職種の新設をうたった。一般教員が教育に専念できるようにすることも目的のようだ。しかし、定員を増やさずに、多忙化解消につながるか疑問だ。

教員免許法改正案では教員免許に十年間の有効期間を設け、三十時間の更新講習を義務づけた。教員の資質向上を図るというが、免許を更新制にして優秀な人材を確保できるだろうか。

教員の定数や教育予算の拡充、免許更新制度に伴う講習費用の支援の検討などを政府に求める十一項目の付帯決議がついた。参院での審議は二十一日から始まる。議論すべきことが、いっぱいある。

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『秋田魁新報』社説 2007年5月20日付

教育改革3法案 教育を政治的に扱うな


教育改革関連3法案が衆院を通過し、今国会で成立する見通しとなった。教育行政の根幹に触れる重要法案にもかかわらず、衆院での議論が低調だったことは、憂うべき事態である。

拙速審議のため、「改革」とか「再生」といった聞き心地の良い言葉は聞こえてきても、肝心のビジョンがさっぱり見えてこない。安倍内閣が夏の参院選をにらんで、目玉法案の成立へと突き進む姿勢だけが印象に残るのだ。

教育は百年の大計である。将来を見据えた幅広い議論が欠かせないはずだ。それを政治的思惑で扱えばどうなるか。教育現場が混乱し、取り返しがつかないことになりかねない。そのことを安倍晋三首相はもっと意識すべきである。

昨年暮れに成立した改正教育基本法を受けて提出された3法案で最も気になるのは、何と言っても国家統制色が強くにじむことである。

学校教育法改正案では義務教育の目標に「国を愛する態度」「公共の精神」を盛り込み、地方教育行政法改正案には教育委員会に対する文部科学相の是正指示・要求権を規定した。教員免許法改正案は、終身制だった教員免許を更新制へと切り替える大胆な内容だ。

なぜ今、学校教育や地方教育行政に国が大きく関与する道を開かなければならないのか。安倍首相らの答弁を聞いても理解できない。

何より問題なのは、政府がこれまでの教育の成果や問題点を明確にしないばかりか、展望も示していないことだ。

「子供のモラルや学ぶ意欲が低下した」との安倍首相の説明は分かるとしても、なぜ今の学校では駄目なのか。「現在の学校は再生しなければならないほど、ひどいものか」との地方公聴会での声は、教育関係者に共通した思いだろう。

教員免許更新制にしても、「時代の変化に応じられる力を身に付け、教師への信頼を取り戻す」といった説明では到底、納得できない。現在でも初任者研修、10年研修といった法定研修のほか、都道府県ごとにさまざまな研修がある。さらに必要だというなら、既存の研修を充実させればいい話だ。

要するに、種々の「改革」によって教育は今より良くなるのか、視界不良なのだ。

そもそも中央教育審議会の答申から、正常な姿ではなかった。通常ならば1年以上かかるところを、3月の法案提出に間に合わせるように1カ月足らずの審議で答申したのである。

中教審では、委員から「突貫工事は手抜きにつながる」との声が上がったが、まさに国会でも同様の状況だろう。

教育現場からは「多忙だ」という声が聞こえてくる。何かにつけて、計画書や報告書を作成し、提出しなければならない。県内のある教師は「雑務が多くて子供と触れ合う時間が少なくなった」と嘆いている。こうした現場の声にもっと耳を傾けなければなるまい。

教育とは詰まるところ、人間と人間の営みである。大切なのは、いかに現場をその気にさせるか、だ。参院では、そのような視点での審議を望む。

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『信濃毎日新聞』社説 2007年5月22日付

教育3法案 成立急がず論議尽くせ


教員免許の更新制など教育関連の3法案の審議が参議院で始まった。中央教育審議会の論議を1カ月で終わらせ“突貫工事”でたたきあげた法案は、衆議院で11もの付帯決議が付いている。

学校現場を大きく変える法案なのに、内容は生煮えのままだ。参議院では踏み込んだ論議をすべきである。選挙目当てで成立を急ぐのでは、教育はよくならない。

3法案は全体として、教員や学校、教育委員会への国の管理を強める内容になっている。

教員免許は10年で更新とし、約30時間の講習後に試験を行う。合格できない教員は免許取り上げなどの処分対象になる。

子どもの教育を受ける権利や命が守られていない場合、国が教育委員会に是正を求めることができる。

義務教育の目標に「愛国心」などを盛り込む。学校に副校長、主幹といった役職を増やせる。

地方分権の流れに反するという批判も根強い。拙速な論議との声を押し切って、衆院では約60時間の特別委員会審議で可決した。

さまざまな懸念がある。一つは教員免許更新の費用を誰が負担するかだ。文部科学省の試算では講習費用は1人約3万円かかる。年間30億円余りの講習費用は個人負担か、国や都道府県が負担するのか決まっていない。現在の10年目研修との調整もこれからだ。

何よりも、いままで以上に教員の負担が増えることで、質を高めることになるのか疑問が残る。

学校に新たな役職を置くことにはマイナス面もある。上意下達が強まり、先生の優劣をつけるような組織化は、いい結果を生まないだろう。

最も気掛かりなのは、学校教育法の改正で、国が求める規範が子どもに押しつけられていくことだ。

21日の参院本会議で安倍晋三首相は義務教育の目標に盛り込まれる「わが国と郷土を愛する態度」について、「態度」を養う指導が一層行われるよう努めていくと述べた。学習指導要領の見直し、道徳教育の充実などを挙げている。

安倍首相の教育改革の持論は「子どもたちに高い規範意識と学力を身に付けさせる」である。だが、学校や家庭でルールを体得するのではなく、国が求める規範を押しつけられれば、子どもにとって学校は息の詰まる場所になる。

地方公聴会では「国がいつも正しいわけではない」という異論も出た。だめな学校や先生、教育委員会を国が厳しく指導する、といった姿勢では教育はよくならない。

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『北日本新聞』社説2007年5月20日付

教育改革3法案/国の統制より環境整備を


安倍晋三首相が「公教育の再生は待ったなし」として急がせた教育改革三法案が衆院を通過した。副校長や主幹教諭などの新たな職を設ける「学校教育法改正案」、現在は終身制の教員免許を十年ごとに更新する「教員免許法改正案」、文部科学相が教育委員会に是正・改善を指示できるようにする「地方教育行政法(地教行法)改正案」だ。

どれも教育現場に対する国の統制を強める内容である。富山市などで開かれた地方公聴会では、今でさえ多忙な学校がますます忙しくなると懸念する声が続出した。教委に対する国の関与が地方分権の流れに逆行するとの指摘も少なくなかった。こうした不安や疑問は解消しただろうか。学校教育のあり方を丁寧に論じるのではなく、参院選に向けた実績づくりを狙う首相の政治的思惑で突っ走った感が否めない。

教育改革論議は、いじめ自殺や必修科目の未履修問題などを契機に高まった。手をこまぬいていた学校や教委があったり、資質や能力に欠ける教員がいたことは事実である。しかし、福岡市の公聴会では「現在の学校は再生しなければらないほどひどいものか。大部分の学校や教員は一生懸命頑張って成果を挙げている。教育界は風評被害に遭っている」と指摘された。首相の掲げる教育再生に根本から疑問を投げかけるものだった。

「再生」というからには、現在の公教育がどんな状態で、どんな対策を講じるべきかを示さなければならないはずだ。しかし、首相らの国会答弁は「高い規範意識と学力」「道徳や公共の精神」など抽象的な文言だけで、現状認識も処方箋(しょほうせん)も具体的には語られなかった。

学校教育法改正案には「国と郷土を愛する態度を養う」などの義務教育の目標が明記された。昨年末に成立した改正教育基本法を踏まえたものだが、国が「態度」を一方的に押しつけることにならないか心配だ。

地教行法改正案では、教委に対する文科相の是正指示は「緊急に生徒などの生命・身体を保護する必要が生じた場合」が例示されたが、公聴会では首長らから「現行の地方自治法で十分に対応可能」との意見が多かった。地方分権一括法で一度は廃止された文科相の是正措置を復活させたのは、国の関与を強めようという意図だろう。

一方で、副校長や主幹教諭など新たな職制をつくるとなれば、それにふさわしい人を得なければならない。十年ごとの免許更新で三十時間の講習となると、その間現場を離れる教師のカバー体制も必要になる。しかし、行政改革推進法に盛り込まれた教員の給与や定数の削減はそのままだ。さすがに、与野党双方から教育予算の拡充を求める声が相次いだ。三法案の付帯決議には「教職員定数と教育予算の拡充に努める」との一項が盛られたが、このことこそ教育改革の最重要課題ではないのか。

国の統制強化で学校教育が良くなるとは思えない。教師が一人一人の子どもときちんと向き合える環境整備を、参院ではしっかり論議してもらいたい。

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『京都新聞』社説 2007年5月19日付

教育関連法案  生煮え、審議を尽くせ


「教育再生」をめざす安倍晋三首相が今国会の最重要法案と位置づける教育関連三法案が、衆院で可決された。

審議不十分とする野党の反対を自民・公明の与党が数で押し切った形だ。

法案は、文部科学相に教育委員会への是正指示権を与え、義務教育の目標に「愛国心」を盛り込むなど、国の関与を強める色彩が濃い。教育関係者から異論が出ているばかりでなく、詰め切れていない内容も多い。

政府・与党は参院選をにらみ、実績をアピールするため今国会での成立を図る構えだが、このままでは教育現場に混乱を招きかねない。

拙速を避け、参院で審議を尽くすとともに、国民的な議論を広げ、「百年の大計」を考えたい。

三法案は、改正教育基本法を具体化させるための改正だが、答申を受けた中央教育審議会での審議は、わずか一カ月にすぎない。そのせいもあって、衆院特別委や公聴会の議論では、「生煮え法案」との印象が否めなかった。

「地方分権に逆行する」と自治体から反対の強かった文科相の是正指示・要求権も、是正するのがどんなケースなのかいま一つはっきりしない。

政府の分権推進の立場との整合性については、首相からの説明がなかった。

教員免許の更新制もあいまいだ。十年間の期限付きとし、講習で修了認定されなければ更新しないと規定したが、十年に一度の講習で果たして教員の資質が向上するのか。はなはだ疑問だ。

さらに、「不適格教員」は免職などの処分がある一方で、勤務実績の優秀な教員は講習が免除されるという。判断基準は何か。恣意(しい)的にならないか、心配する声があがるのは当然だろう。

副校長や主幹ポストなどの新設規定についても、授業のない管理職より教員の数を増やすべきだ、とする学校現場の方に説得力があるようにみえる。

授業の指導案づくりや教材研究などに追われ、教員が子どもと向き合う時間が減っているのが現実なのに、これでは、いじめをはじめとする問題を解決するどころか、学校現場をがんじがらめにして活力を失わせる恐れさえある。

教育再生は憲法改正と並び、安倍首相が政権の柱に掲げる「戦後レジーム(体制)からの脱却」の核といえよう。

確かに、教育が現状のままでよいと考える人は多くないだろう。だからといって、すべてがだめ、ということでもあるまい。

戦後教育のどこがよくて、何がまずかったのか。脱却というのなら、そこからスタートするべきではないか。

ましてや、選挙とからめる問題ではない。参院では、どんな子どもを育てようとするのかも含め、一から議論してもらいたい。今国会での成立にこだわる必要は、さらさらない。

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『山陽新聞』社説 2007年5月19日付

教育3法案 現場の不安除く議論必要


教育改革関連三法案が衆院本会議で自民、公明両党などの賛成多数で可決され、衆院を通過した。参院では週明けの二十一日から審議入りする。今国会での成立が強まった。

教育三法案は「教育再生」を掲げる安倍内閣が、今国会の最重要法案と位置付けている。昨年十二月に成立した改正教育基本法を踏まえ、一気に改革を進めようとする。

三法案は、義務教育の目標に「我が国と郷土を愛する態度を養う」ことなどを明記した学校教育法改正案と、文部科学相の教育委員会に対する是正指示、要求権を新たに規定した地方教育行政法改正案、さらに現行の終身制教員免許を二〇〇九年四月から有効期間十年の更新制とし、三十時間の講習を義務付ける教員免許法および教育公務員特例法改正案である。教育行政の根幹を揺るがすような重要な内容が含まれている。

教育現場からは、教育三法には問題があり、成立すれば、混乱を招きかねないと不安視する声が出ていた。大きな不安は、地方教育行政法改正案が教委への文科相の是正指示などの権限を認めたことで「国の関与」が強化されないかだ。国会審議では、伊吹文明文科相が「国の関与は必要最小限だ」と強調し、指示権行使の例として「いじめで生命身体の保護が必要な子どもがいるのに、教委が加害生徒の出席停止などを命じない場合」を明示した。

しかし、国が関与を強めればいじめの解消につながるのか。野党は教委から国に報告が上がってこなければ全く無意味だと指摘する。地方公聴会でも、逸見啓山形市教育委員長が「大臣が出てくる前に(教委が)対処する」と述べたが、いじめを教委が認識しているなら、大臣に指示されるような事態にはなるまい。

斎藤弘山形県知事は、文科相の指示権について「地方分権に反する」と批判した。「教育分野では地方の自主性をより尊重すべきで、現行制度で十分だ」と主張した。

教員免許の更新制も、講習の内容がはっきりしない。国の押し付けであっては、型にはまった教員になってしまう恐れがあろう。

日本の教育界は、文科省を頂点とした中央集権的な構造が根強く、現場の主体性や創意工夫が生かされる環境に乏しかった。教育再生は、国が関与を強めるのではなく、分権を進め、教育現場の独創性を引き出す方向を探るべきであろう。

衆院は特別委員会を設置し、審議は六十時間に及んだが、与野党の論戦は低調だった。参院は、現場の不安を取り除く丁寧な議論が必要だ。

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『愛媛新聞』社説 2007年5月19日付

教育3法案 現場の懸念は解消されていない


現場の懸念を置き去りにして教育が良くなるのだろうか。

学校教育法、地方教育行政法、教員免許法の教育改革関連三法の改正案がきのう衆院本会議で可決され、今国会で成立する見通しが強まった。

義務教育の目標として公共の精神や国と郷土を愛する態度を養うと規定、副校長や指導教諭などのポストも新設する。教育委員会への文部科学相の是正指示・要求権を設ける。教員免許を十年ごとの更新制にする。

三法案それぞれの柱だが、国が内心を縛る事態がさらに現実へ近づきかねない。組織や人事を通じた教員の管理も強まるだろう。教育基本法改正の際、まさに心配された方向だ。

戦前の反省から教育行政は国家統制を抑制してきたが、大きな転換点でもある。だが、いじめ自殺への不適切な対応や必修科目の未履修では文科省の姿勢も問われた。反省を欠いた権限強化はやはり筋違いだ。

むしろ教育の向上は現場に負うところが大きいのに、事務処理などに忙殺される教員をこのうえ締めつければ子どもに向き合う時間をさらに奪う。優秀な人材が集まるかも気になる。

三法案をめぐっては、衆院特別委員会の地方公聴会が先ごろ松山市で開かれた。肯定的な意見も確かにあった半面、国の権限強化や免許更新時の新たな研修の義務化に伴う負担増には疑問や不安が相次いだ。

たとえば是正指示権の新設には「国がいつも正しいとは限らない。錦の御旗のもとに地方へおろされると混乱する」(中村時広松山市長)との意見があった。もっともな指摘だ。

政府の想定する子どもの生命にかかわる事態なら、ものをいうのは現場の機動的かつ迅速な対応だろう。懸念を押してまで導入する必然性はないはずだ。国の指導権限も地方自治法に規定されている。

免許制にしても、研修の時間的・金銭的負担以上に、不適格教員の排除手段とされている点は疑問だ。不適格者は懲戒や分限の制度で対応できる。免許更新をまつまでもない。

賛否両論は他の公聴会会場でも出された。議論が十分に煮詰まっていない証しだろう。

それもそのはずで、中央教育審議会にわずか一カ月あまりで答申させ、閣議決定したのが三法案だ。そのもとになった教育再生会議の第一次報告は、自民党内からでさえ専門的視点を欠くなどと批判されている。

教育改革は安倍晋三政権の最重要課題だ。改革そのものは国民的ニーズだが、性急な展開には夏の参院選へ向けた実績づくりの側面が見えてしまう。

首相の指導力を発揮するのであれば、まず国内総生産(GDP)比で先進国中、最低レベルにある教育費の公的支出を大胆に見直してはどうか。教員の増加もポストの新設よりはるかに切実な要請に違いない。

衆院の論戦は懸念の解消にほど遠く、地方公聴会も採決のおぜん立てだった印象を受ける。参院は十分に時間を費やして懸念にこたえてもらいたい。

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『高知新聞』社説 2007年5月19日付

【教育3法案】子どものためなのか


このまま突っ走って、本当に子どもたちのためになるのだろうか。衆院を通過した教育関連三法案への疑念は一向に消えない。

教育、とりわけ公教育の現場が、いじめや不登校など多くの問題を抱えていることはいうまでもない。保護者らの不安や不満が強まる中、改革が急務なのは確かだ。問題はその中身と手法だろう。

改革を進める場合、現状に対する十分な検証が出発点となる。子どもや教員という「人」が中心になり、時間をかけて形づくられていく教育では特に重要だ。

どこに問題があり、何が原因なのか。解決していくためにはどういう処方せんが必要で、それを実行した場合にはどういう影響があるのか。データなどに基づく多角的な分析と論議が欠かせない。

ところが、昨年の教育基本法改正に始まる安倍首相の「教育再生」路線では、そうした地道な作業はおざなりにされてきた。参院選に向けた「看板」にしようとする思惑が先行したといわざるを得ない。

首相肝いりの教育再生会議などが描いた処方せんの中身にも大きな問題がある。

学校教育法改正案では「国と郷土を愛する態度」などを義務教育の目標に加えた。教員免許法改正案は十年に一度、講習を修了しないと免許が更新されない仕組みを導入し、地方教育行政法改正案には教育委員会に対する文部科学相の是正指示、要求権を盛り込んでいる。

それらにうかがえるのは国による教育統制の強化だ。高まる保護者らの不安や不満に乗っかって、一気に関与を強めようとしているようにみえる。

国の権限強化によっていじめ問題などが解決すると考えているなら、早計にすぎよう。むしろ三法案に対する地方の不安が示すように、上意下達システムの強化が地方の教育行政や学校現場で新たな混乱を広げる恐れさえある。

免許更新制の導入などの締め付けによって教員の委縮や多忙が加速することになれば、しわ寄せを受けるのは子どもたちだ。改革とは逆の方向に進むように思えてならない。

安倍首相が本当に「教育重視」を考えているなら、教育予算の大幅拡充など学校現場への支援にまず取り組むべきだ。三法案をめぐる審議は参院に舞台を移すが、改革の名に値する丁寧な論議と説明をあらためて求める。

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『琉球新報』社説 2007年5月19日付

教育改革3法案・国の関与強化でいいのか


教員免許更新制などを盛り込んだ教育改革3法案が衆院を通過した。参院に送付され、今国会で成立する見通しだ。昨年の教育基本法改正を受けて提出された3法案は、学校現場や地方教育行政に対する国の関与を大きく認めるものとなっている。さらに、教育目標に「愛国心」や「公共の精神」も明記されるなど、極めて保守色の強いのが特徴だ。

安倍晋三首相が憲法改正と並んで、最重要法案と位置付ける教育3法案。多くの疑問や不安、反発がありながら、与党の賛成多数での可決には拙速の感がぬぐえない。

3法案のうち、学校教育法改正案は教育目標に「国を愛する心」「規範意識」などを盛り込む。しかし、国を愛するとは、どういう態度なのか。それは、誰が決めて、どのように評価するのか。肝心の点があいまいなまま。国を愛する気持ちは人さまざまだ。決して他人から押し付けられるものではない。まして国からとなると、それこそ論外だろう。

さらに、教育目標には、わが国の歴史について「正しい理解に導き」ともある。だが、ここでも正しい歴史であると、誰が判断するのか。国の考える正しい歴史を押し付けるつもりなのだろうか。

「愛国心」にあおられて戦場に駆り出された、あの悲惨な過去を、県民は忘れていない。その「愛国心」は戦前の皇民化教育でたたき込まれたことも、また事実だ。「愛国心」と「非国民」は表裏一体、ということも、多くの県民は身をもって知っている。

そして、その「愛国心」が、集団自決という悲劇の背景の一つにあったということも、県民の認識だ。来年度から使用される高校教科書の検定で、集団自決について旧日本軍の命令や強制があったとの記述が変更された。「歴史の改ざん」と指摘されても、これが「正しい歴史」となって教科書に盛り込まれる。今回の3法案を見ると、国に都合のいいシナリオ作りが進むことが懸念される。

そのほか、同法案は至るところで国の公教育への関与がうたわれている。教員免許更新制を打ち出した教員免許法改正案もそうだ。法案では、10年の有効期間を定め、30時間の講習終了を更新の条件としている。だが、講習内容など、すべて文科省の検討に委ねられる。講習が国主導で行われ、自主性・自律性のない、国にとって都合のいい教師づくりにならないか。

国の未来を背負う子どもたちと、教師の関係をどう改善するのか。先進国では最悪の40人学級は据え置かれるのか。法案は多くの面で、国民が納得できる具体的なビジョンに欠ける。「教育は100年の計」という。法案は教育の根幹を揺るがしかねないだけに、参院ではしっかりとした審議が望まれる。

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『沖縄タイムス』社説 2007年5月22日付

[教育3法案]ビジョン見える論議を


教員免許更新制などを盛り込んだ教育改革関連三法案が二十一日、参院で審議入りした。

安倍晋三首相が「教育再生」を憲法改正とともに政策の二大看板として掲げていることから、与党は今国会の会期内(六月二十三日)成立を目指し、今月十八日に衆院を通過させた。

これに対し、野党は参院で徹底審議を主張するなど抵抗を強める構えだ。

与党にとっては、三法案が成立すれば七月の参院選で政権の実績としてアピールできるため、審議を加速させ一気に法案成立へ突き進むことが予想される。

だが、教育の根幹にかかわる法案を

与党の「数の力」で押し切っては将来に禍根を残しかねない。三法案は、学校教育や地方教育行政に対する国の関与の道を大きく開いており、地方や教育現場の不安はなお払拭されていないからだ。

参院では、現場の意見などを広く反映させ丁寧な審議が望まれる。

三法案のうち、学校教育法改正案は義務教育の目標として「国を愛する態度」を明示。組織運営強化のため小中学校での「副校長」や「主幹教諭」ポストを新設したほか、学校評価を行うことなどを盛り込んだ。

しかし、国を愛する態度とは一体何なのか。昨年末の教育基本法改正審議から積み残されたこうした課題は十分に論じられたとはいえない。

地方教育行政法の改正案では、教育委員会への文部科学相の是正指示・要求権が盛り込まれた。

国を愛する態度とともに、これらの基調にあるのは教育に対する「国の統制強化」であり、教育委員会や教諭、児童・生徒らに大きな影響を及ぼす内容といえる。

教員免許法および教育公務員特例法改正案では、教員免許を二〇〇九年四月から有効期間十年の更新制とし、三十時間の更新講習を義務付けている。

果たして、三十時間の講習で時代の変化に応じた力を身に付けることができるのか。その講習の内容や修了判断の妥当性をどう担保するのかも文科省の検討に委ねられている状態だ。

安倍首相は、教育再生の狙いを「子どもたちに高い規範意識と学力を身に付けさせる」と繰り返したが、今の学校ではなぜ、できないのかは触れていない。

教育現場が今後どう変わっていくのか。今よりも本当に良くなるのか。首相や伊吹文明文科相らのこれまでの答弁からはまだビジョンは見えてこない。参院ではそこまで踏み込んだ論議をしてほしい。

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