『愛媛新聞』社説 2007年5月26日付

地方の医師不足 解消へあらゆる手だてを尽くせ


地方の医師不足が大きな社会問題になっている。本県でも病院や診療所の休廃止、入院部門の取りやめ、診療日の削減などが続いている。特に南予では医療体制が急速に弱体化している。事態は深刻だ。

もともと過疎地域では医師確保が難しかったが、それに輪をかけたのが二〇〇四年度に始まった新臨床研修制度だ。

それまで新人医師の大半は出身大学に残り、大学病院や関連病院で研修に励んだ。大学は豊富な人材を抱え、過疎地に医師を送り出す余裕があった。

ところが新制度では新人医師が自由に研修先を選べるようになり、待遇が良く研修機会の多い都市部へ流出するようになった。大学は過疎地に医師を派遣する余裕がなくなった。

新制度は診療能力を幅広く身につけられるほか、自由意思の尊重、処遇の改善などで確かに有意義だろう。が、その陰で地域医療が崩壊しかけている現実を見逃すわけにはいかない。

対策として政府、与党は受け入れ病院の総定員を削減する方向で検討している。研修医が集中している大都市圏の定員を減らし、研修医を地方へ誘導する狙いだ。地域に定着する可能性も強まる。しかし、やり過ぎれば新制度の目的がゆがめられる。注意も必要だ。

臨床研修を終えた医師を対象にした調査では、大学病院について「雑用が多い」「待遇が悪い」などの不満が多かった。こうした点も改善しなければ地方への誘導は難しい。

ほかにも国公立大学の医学部に、卒業後に過疎地勤務を義務付ける「へき地枠」を創設する方向で政府、与党は調整に入った。入学定員百人当たり五人程度を同枠として増員する案が上がっている。

本県が提案してきた制度だという。実現すれば有効な対策となり得る。授業料の貸与や免除など財政的援助の仕組みが必要だが、ぜひ前向きに取り組んでほしい。

産科医や小児科医の不足に関しては、厚労省などは昨年まとめた「新医師確保総合対策」で出産時の事故に対する無過失補償制度創設や、小児科医、産科医を重点配置する拠点病院づくりなどの施策を打ち出した。医師の負担をできるだけ軽くする必要がある。

本県は人口十万人当たりの医師数が約二百二十四人(〇四年末)で、全国平均をやや上回っている。総体として特に不足はないものの偏在が目立つ。

このため県は過疎地の医療対策を本格化させており、昨年度は医学生への奨学金制度を導入した。地域医療を希望する医師を登録するドクターバンク創設の検討も進めている。

即効薬や特効薬はないにせよ、行政当局は今後もあらゆる手段を尽くし、地道に成果を積み上げていく必要がある。

自民党などは参院選の公約に医師不足対策を掲げる方針だが、これは政争の具にするような問題ではない。選挙に関係なく、可能なものから迅速に実行に移していくべきだ。