『朝日新聞』社説 2007年5月19日付

教育3法案―疑問がいっそう膨らんだ


安倍首相が力を入れている教育改革の関連3法案が、衆院を通過した。昨年の教育基本法改正に続く第2弾である。

それにしても、随分と急ぎ足ではないか。通常は1年程度かける中央教育審議会の答申も、わずか1カ月でまとめさせた。「突貫工事は手抜きになる危険がある」との批判が、審議会の委員から上がったのも当然だろう。

私たちはこれまで社説で、3法案が本当に教育の再生につながるのか、論議を尽くしてほしいと書いた。いずれの法案も地方分権に逆行し、国の権限と管理を強めようとする色彩が濃いからだ。

・地方自治体の教育委員会に指示をしたり、是正を要求したりする権限を文部科学相に与える。

・教員免許の有効期限を10年に限り、更新するには講習を条件とする。

・義務教育の目標に「愛国心」を養うことを盛り込む。

・学校に副校長や主幹教諭らを置く。

それらが法案の内容だが、約60時間の審議で見えてきた疑問がいくつかある。

教育委員会への指示や是正要求を盛り込んだのは、そもそも、いじめ自殺と必修科目の未履修問題がきっかけだった。こうした問題で教育委員会がきちんと対応しなかった場合に発動する。政府はそう説明してきた。

法案では、指示や是正は、子どもの命が脅かされたり、教育を受ける権利が侵害されたりした場合に限られている。

ところが、伊吹文科相は答弁の中で、学校が卒業式などで国旗を掲揚せず、国歌も斉唱しなかった場合などを新たに介入する対象として挙げた。

文科相から見れば、子どもの教育を受ける権利が侵害された場合にあたるということかもしれないが、これでは際限なく国が口をはさむことにならないか。法案が出されたときに私たちが示した心配が、現実のものになってきた。

教員免許を更新するときに、どんな講習をさせるのか。その内容は法律の成立後に省令などで定めるとして、明らかにされなかった。講習の内容によっては、思想や信条で教師を選別することにならないか。その不安が消えない。

そもそも、10年ごとの講習にどれだけ意味があるのか疑問だ。現在の研修を充実させる方が効果的ではないか。

免許の更新制は、指導力に欠ける教師を除く仕組みとしてもそれほど役には立たない。すでに各地の教育委員会にある判定機関をもっと活用した方がいい。

副校長や主幹教諭らを置くことで、学校に会社のような「中間管理職」が生まれる。「教員同士の和」に乱れが生じるのではないか。そんな声が現場の校長から上がるのももっともだろう。

教育現場がこのままでいいとは誰も思っていないだろう。だが、だからといって、この法案で学校がよくなるとは思えない。参院では、子どもたちのことを考え、きちんと論議をしてもらいたい。