『毎日新聞』2007年5月20日付

Watch!:教育関連3法案、衆院通過 時代に逆行、広がる懸念
◇教員の萎縮、志願者減、序列化…子どもの“今”直視して


「教育現場がますます混乱する」。教育関連3法案が18日に衆院を通過し、今国会で成立する見通しとなった。約5万人の教員がいる府内では、教員免許更新制度の導入などに対する懸念が広がっている。一方で、いじめなどの問題に関し、「教育委員会は迅速に対応できていない」との指摘も。関係者は3法案をどう受け止めているのか。教諭、保護者、府教委に聞いた。【大場弘行】

◇教諭

「校長や教頭のいる前で、僕の授業の批判はせんといて」

堺市内の府立高校の男性教諭(48)は最近、同僚にこう詰め寄られた。同僚は、今年度から本格導入された勤務評価制度を気にしていた。校長の評価で教員の給与や昇進に差が生じるからだ。男性教諭は「職員室で授業を批評し合ってこそ健全だと思うが、免許更新制度などが導入されたら現場はますます萎縮(いしゅく)してしまう」とぼやく。

府教委は副校長などの“管理職”を先行配置しているが、府東部の府立高校の女性教諭(54)は「教員の序列化が進み、教員は校長の顔色を、校長は教委の顔色をうかがう。職員会議でも発言しづらい」と表情を曇らせる。

◇教育委員会

綛(かせ)山哲男教育長は17日の記者会見で、文部科学相が教委に指示や是正を要求できると規定した地方教育行政法改正案について「地方分権の時代に逆行し残念」と不快感を示した。府教委は免許更新制度導入に向けた準備を進めているが、ある幹部は「30時間ぐらいの講習で問題教員を判別できるはずがない」と批判する。

大阪教育大の今年度入試で、教員養成課程の志願者数は3年前より600人近く少なかった。全国的に教員を目指す若者は減少傾向。同大は「問題が起こると学校と教員の責任にされ、世間からたたかれる。忙しさは増し、教師という職が敬遠される風潮がある」と危機感を募らせる。

◇保護者

八尾市の女性(39)は3月、安倍晋三首相と伊吹文明文科相あてに、府と市教委への指導を求める手紙を出した。中学3年だった長女へのいじめを学校が放置し、長女が1年近く不登校になっているのに、教委が十分な指導をしていない、と訴えた。

文科省は府教委に手紙が来たことを連絡しただけで指導はしなかった。同省担当者は「大臣はすべての手紙を読めないため、統計にまとめて報告する。こうした事案は法成立後も指示や是正要求の対象にならないだろう」と述べた。

返事が来ないため、女性はインターネットのブログなどで学校や市教委の対応を告発。「法改正だけでは期待できない。子どもが生きづらい現実を直視して」と訴える。

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◇教育関連3法案の柱

◆学校教育法改正案

義務教育の目標に「我が国と郷土を愛する態度」を盛り込み、副校長や主幹などを創設。

◆地方教育行政法改正案

教育委員会に対する国の指示・是正要求権を新設。

◆教員免許法改正案

教員免許の有効期間を10年とし、免許更新制を導入。