『朝日新聞』2007年5月14日付

大学院へ飛び入学急増 3年生から 人材確保へ囲い込み


大学3年から大学院への飛び入学が急増していることが文部科学省のまとめでわかった。大学院間の競争が激しくなる中、優秀な学生を囲い込もうと競争が激化している。一方、高校2年生から大学への飛び入学は受け入れ態勢作りに手間がかかることもあり、なかなか広がっていない。

89年の制度改正で可能になった大学院への飛び入学は04年度から急増。05年度は83校が378人を受け入れ、38校170人だった03年度と比べて校数、人数とも2倍強に達した。

卒業に必要な単位数を取得できないため、飛び入学すれば学士号は与えられない。それでも急増しているのは90年代以降、国際競争力の強化をめざして東大を先頭に大学院強化が急速に進み、「早くから大学院で研究を積ませ、優秀な人材を育てたい」との大学院側の思いがある。加えて、「有力な他大の大学院に優秀な人材を奪われたくない」(関西の私大教授)との心理も働き、特に自校からの飛び入学が急増している。

政府の教育再生会議は、こうした「囲い込み」傾向を問題視。主要大学の大学院に自校の自学部から入学できる学生の割合を3割以下に制限するよう提案している。

代々木ゼミナール入試情報センターの坂口幸世本部長は「大学院も大学と同様に乱立気味。優秀な学生の獲得が生き残りのカギとなるだけに、大学院への飛び入学には、1年分の学費を免除するという意味合いもあるのでは」と分析している。

一方、97年に解禁された高校から大学への飛び入学は、06年度までの累計で入学実績があるのは千葉大、名城大(名古屋市)、会津大(福島県会津若松市)の3校だけで、人数も千葉大41人、名城大20人、会津大1人の計62人にとどまる。他に3校が門戸を開くが、まだ入学者はゼロだ。

千葉大先進科学研究教育センターの上野信雄センター長は「導入にはマンパワーが必要で、挑戦できる大学は少ない」と指摘。飛び入学すると高校の卒業資格が得られないため「大学で1年間学んだら資格を与えるなど、学生や保護者の不安を減らすことも必要」と訴える。