『読売新聞』2007年5月13日付

医学部に地域勤務枠、卒業後へき地で10年…政府・与党


政府・与党は12日、へき地や離島など地域の医師不足・偏在を解消するため、全国の大学の医学部に、卒業後10年程度はへき地など地域医療に従事することを条件とした「地域医療枠(仮称)」の新設を認める方針を固めた。

地域枠は、47都道府県ごとに年5人程度、全国で約250人の定員増を想定している。地域枠の学生には、授業料の免除といった優遇措置を設ける。

政府・与党が週明けにも開く、医師不足に関する協議会がまとめる新たな医師確保対策の中心となる見通しだ。

地域枠のモデルとなるのは、1972年に全国の都道府県が共同で設立した自治医科大学(高久史麿学長、栃木県下野市)だ。同大では、在学中の学費などは大学側が貸与し、学生は、卒業後、自分の出身都道府県でのへき地などの地域医療に9年間従事すれば、学費返済などが全額免除される。事実上、へき地勤務を義務づけている形だ。

新たな医師確保対策で、政府・与党は、この“自治医大方式”を全国に拡大することを想定している。全国には医学部を持つ国公立と私立大学が計80大学ある。このうち、地域枠を設けた大学に対し、政府・与党は、交付金などによる財政支援を検討している。

医療行政に影響力を持つ自民党の丹羽総務会長は12日、新潟市内での講演で、「自治医大の制度を全国47都道府県の国公立大などに拡大したらどうか。5人ずつ増やせば、へき地での医師不足は間違いなく解消する」と述べ、“自治医大方式”の拡大を提案した。

医学部を卒業した学生にへき地勤務を義務づけることは当初、「職業選択の自由に抵触する恐れがある」との指摘もあった。だが、「入学前からへき地勤務を前提条件とし、在学中に学費貸与などで支援すれば、問題ない」と判断した。

政府は昨年8月、「医師確保総合対策」を策定し、医師不足で悩む県にある大学医学部の定員増を暫定的に認め、2008年度から最大110人を認めた。しかし、医師不足解消の見通しは立たず、来年度予算編成に向け、追加対策が必要だとの声が政府・与党内から出ていた。

今回、新たに地域医療を強化するのは、現在の医師不足問題が、医師の絶対数不足よりも、都市と地方の医師の偏在に、より問題があるとみているためだ。

厚労省によると、人口10万人当たりの医師数は、全国平均の211・7人(2004年)に対し、青森(173・7人)、岩手(179・1人)、岐阜(171・3人)などと東北を中心に平均を大きく下回る。東京(278・4人)など大都市との格差が大きい。また、02年度の立ち入り検査では、全国の4分の1の病院で医師数が医療法の基準を下回った。

政府・与党は、医師不足問題に関する協議会で、「新たな医師確保対策」をまとめ、「経済財政運営と構造改革に関する基本方針(骨太の方針)2007」にも新たな医師確保対策を盛り込む方針だ。