『朝日新聞』社説 2007年4月21日付

教育3法案―学校の再生になるのか


三つの教育関連法の改正案が、衆院で審議入りした。

国が地方自治体の教育委員会に指示できるようにする。教師の免許を更新制にし、不適格な教師を教壇から外す。学校では管理職や校長の補佐役を増やす。それらが改正案の内容だ。

安倍首相は答弁で「公立学校の再生は待ったなしだ」と述べた。

しかし、いまでも国は指導や助言を通じて教育委員会に大きな権限を持つ。国の顔色をうかがう教育委員会は少なくない。文部科学省は学習指導要領や教科書検定で教える内容も決めてきた。

それでも飽きたらず、地域の教育にいっそう口を出し、学校や教師をいままで以上に管理したい。そんな意図が感じられる。「学校の再生」につながるとは、とても思えない。

戦後の教育の指針だった旧教育基本法には、時の政権の政治的な介入に歯止めをかける規定があった。安倍内閣のもとで成立した改正基本法で、その歯止めは弱められた。新たに定められた教育振興基本計画も、地方は国の計画を参考にしてつくることになっている。

国が前面に出ようという教育基本法改正の方向をさらに固めようというのが、今回の教育3法の改正だろう。

教育委員会に対する指示や是正要求を認めるのは、地方教育行政法の改正案だ。いじめ自殺や必修科目の履修漏れで教育委員会がきちんと対応しなかった場合に発動する、と政府は説明する。

だが、実際には、もっと幅広く適用されるのではないか。それが心配だ。

そもそも、いじめ自殺は文科省の調査で長年「ゼロ」とされてきた。問題が表面化し、あわてて再調査した。履修漏れも文科省は知っていたのに手を打たなかった。自らの責任を棚にあげて教育委員会を悪者にしている面がある。

教員免許の期限を10年とし、講習の修了を更新の条件とするのが、教育職員免許法の改正案である。

教える力のない教師がいるのは事実だ。だが、全員の免許をいったん無効にする必要があるとは思えない。不適格な教師を外すには、すでに各地の教育委員会にある判定機関を活用すればいい。

学校教育法改正案では、新たに副校長や主幹教諭らを置く。学校で、これ以上管理職を増やすことに、どれほどの意味があるのだろうか。学校の教職員定数を増やさなければ、授業を受け持つベテラン教師が減るだけになりかねない。

同法の改正案では、基本法の改正を受けて、義務教育の目標に「愛国心」が明記された。国を愛せと画一的に教えることにならないか。その心配も依然として消えない。

いま教育に必要なのは、少人数学級を実現したり、学校や地域の創意工夫を生かせるようにしたりすることだ。

国が管理を強めるだけで学校がよくなるのか。論議を尽くしてもらいたい。