『信濃毎日新聞』社説 2007年4月20日付

教育改革法案 成立を急ぐ必要はない


学校教育法改正など教育関連三法案の審議が衆議院で始まった。教員免許の更新制や教育委員会への国の関与など、教育現場に大きな影響を与える内容だ。

与党は今国会での成立を目指す。参院選をにらみ、教育分野で実績をつくる狙いだ。学校や教師のあり方にかかわる重要な問題を、短期間で決めようとしている。

三法案のうち、現場に最も影響が大きいのは教員免許法の改正だ。これまで終身制の教員免許を、2009年から有効期間10年の更新制にする。現職教員は約110万人に上る。更新時には30時間以上の講習を受けることになる。

学校教育法の改正案は、義務教育の目標に「国と郷土を愛する態度」などを盛り込む。地方教育行政法の改正は、生徒らの「生命を保護する必要が生じた場合」や「教育を受ける権利が侵害されていることが明らかな場合」に、教育委員会に是正を求める権限を文部科学大臣に与えるものだ。

三法案作りは政治主導で進んできた。政府の教育再生会議の報告を受けて、中央教育審議会に改正を諮問したのが2月上旬だった。中教審は異例の集中審議で、1カ月後に答申を出している。地教行法の改正は反対意見も併記し、最終的な判断は政府にゆだねた。

教育行政ににらみをきかすはずの中教審が、政権の意向を追認する形になった。さらに、今国会での成立を目指し、衆院特別委員会で集中審議する。教育の根幹にかかわる見直しが政治日程に振り回されるようでは、将来に禍根を残す。

中でも地教行法の改正案は、地方の教育行政に国の介入を認めるものだ。地方分権に逆行すると、批判は根強い。

いじめへの対応や高校の未履修問題をきっかけに教委制度の見直しが浮上したが、国の指導を強めれば解決する問題ではないだろう。場当たり的な対応と言わざるを得ない。

教員免許更新制も問題が多い。今でも忙しい現場の負担が増す。レベルアップのため新しい指導法などを学ぶことは必要だが、教員同士の学び合いや必要に応じた研修を受ける時間を作る方が有効なはずだ。教員の身分が不安定になれば、優秀な人材を集めることもままならない。

民主党も教育改革で対案を出している。資質向上のために教員養成課程を4年から6年に延長するといった内容だ。

教育の再生というならば、まずは現場の声を聞くべきだ。その上でじっくり論議するのが国会の責任だ。