『読売新聞』社説 2007年4月9日付

[火山監視体制]「前兆を見逃して噴火、では困る」


日本は世界でも有数の火山国だ。活火山が108ある。

いつ、どの山が噴火するか分からない。ところが、その前兆を監視する体制を維持するのが難しくなってきた。

要は、予算不足のためという。

火山活動は、これまで主に各地の国立大学が研究の一環として観測し、噴火の前兆を監視してきた。

例えば、鹿児島県の桜島は、京都大学と東京工業大、鹿児島大が手分けして観測を続けている。観測地点は19あり、噴火活動に伴う地震や地殻の変化、熱の発生など、観測項目は多岐にわたる。

群馬、長野の両県にまたがる浅間山は東京大が観測を担当している。このほかにも、東大は、伊豆大島など複数の火山で観測を受け持っている。

国立大学法人となって以降、こうした研究と観測の予算が減り始めた。担当の人員を確保したり、観測機器を維持したりするのも難しくなった、という。

放置できる状況ではない。政府は、早急に体制を立て直す必要がある。このままでは噴火したとき、十分な対応ができない可能性がある。

伊豆大島では、1986年の三原山噴火で全島民が避難した。1か月後に帰島したが、噴火が静まったかどうか判断の基礎になったのは、東大が教官と技術職員を配置して得ていた観測データだ。

しかし、今では、資金不足で観測は無人体制になった。観測機器が故障しても直ちに修理できない。

気象庁も、活動が活発な30火山で独自の観測をしている。ただ、ひとつの火山当たりの観測地点は、大学よりはるかに少ない。伊豆大島では、東大が35地点に対して気象庁は6地点にとどまる。気象庁が火山監視の情報を出す際には、国立大学からのデータ提供が欠かせない。

法人化後の国立大学は、研究成果を商業化して利益を上げるよう求められている。火山のように、時間がかかり、利益の上がらない分野には予算を配分しにくい。気象庁も、人員と予算の削減で、肩代わりできる状況にはない。

火山には、それぞれ個性がある。10年以上の観測データがないと、噴火の前兆や終息を判断することはできない。文部科学省の審議会も、このままでは火山を監視する体制の維持は困難、という報告書をまとめている。

政府は、噴火の際の防災体制を強化するため、火山ごとに、周辺の土地利用も考慮した住民避難の判断基準を新設する方針という。だが、監視体制が不十分で機能するだろうか。関係府省庁は早急に対策を検討すべきである。