国民投票のルールは性急に決められてはならない
     
    - 国民投票法案審議のあり方に疑問を呈す -

                            2007年4月4日
                            全国大学高専教職員組合
                            中央執行委員長 大西 広

日本政治のあり方への疑問

 全大教はこの間、労働条件に関わる様々な取り組みを行なってきた。
2004年度における寒冷地手当廃止への反対運動、2005年度における
人事院勧告の適用阻止の闘い、閣議決定による人件費カットに反対す
る闘い、そして昨年度から今に続く評価と査定給に関わる運動などなど
である。民間賃金が回復基調になるもとで、公務員身分を剥奪された
我々にも公務員と同じ労働条件の引き下げを迫るような政府とそれに
追随する大学当局のあり方に大いに失望した三年間であった。このよう
な事態が続けば、日本の高等教育機関で働く労働者の労働意欲を維持
することはできない。我々は日本の高等教育を防衛するために、このよ
うな労働条件の切り下げに反対してきた。
 とりわけ、この闘いで我々が認識するに到ったことは、この問題が「格差
社会」化を推進する政治のあり方と深く関わっているということである。
我々の中に長く温存された正規職員と「非常勤」職員との間の格差に
加え、大幅な給与の地域間格差が導入されるようになっている。
また、現在導入されようとしている査定給制度も新たな格差の導入である。
これらは我々が我々の生活に影響を与える日本の政治が向かっている
全体的な動きと無関係にはおれないことを示している。

憲法九条の問題も格差社会の問題と関わっている

 この見解は「委員長見解」なので、少し私の個人的体験を語れば、こう
した「格差社会」は戦争の遂行とも深く関わっているということがある。
私は2002〜03年の間、アメリカに滞在し、アメリカがイラク戦争に突入す
る様を現地で体験したが、そこで知ったのは、戦争に実際に行く兵士た
ちは、そうした危険を冒さなければ生きていけないような低所得者ばかり
であるということである。彼らを作り出すことなしにアメリカは戦争を遂行
できない。そして、もしそうであれば、今もたらされようとしている「格差社
会」化の問題は憲法九条の問題と深く関わっている。政府・文科省が
「愛国心教育」にあれだけ拘って教育基本法の改悪をしたのも、この問題
と深く関わっている。この意味で、我々も憲法九条の問題に無関心では
いられない。

今回の国民投票法案の問題点について

 したがって、憲法改正手続きを決める今回の国民投票法案にも我々は
重大な関心を払わざるを得ないが、国会での審議経過には「何が何でも
5月3日までに決める」との安倍首相の態度など黙過できない事柄が多い。
国民投票のあり方を決めること自体を問題視するわけではないが、
改憲先にありきであってはならない。法案が最低投票率を明示していない
ことなどもその趣旨から疑問を感じる。
 また、与党修正案第103条第1,2項で教育者、公務員の「地位利用による」
運動参加を禁じるという条項にも問題が多い。私は経済学者であるから言
うが、国会で消費税率を変更する議論がなされている際中に、経済学者
が最適消費税率の問題について講義してはならないということはなかった。
これが学問の自由の根幹に関わる以上、憲法学者や国際関係論の学者
が国民投票の最中に憲法や九条を講義、あるいは語ることができないと
いうことがあってはならない。また、改訂教育基本法と同様に日本社会の
将来に重大な影響を及ぼす国民投票法制定が小泉郵政解散で造られた
巨大与党の「数」による強行は、議会制民主主義からも疑問である。
 この問題を含め、「何が何でも5月3日までに決める」との安倍首相の態度
はあまりに強引である。国公立大学、高専、大学共同利用機関の教職員で
構成する労働組合の委員長として国民投票法案の審議のあり方に強い
懸念を表明するものである。


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