『産経新聞』2007年4月4日付

深刻化する地方の医師不足 奨学金や定員増…懸命の対策


地方の医師不足が深刻化している。医師の総数は年4000人のペースで増え続けているにもかかわらずこうした事態を招いているのは、医師の偏在が急激に進んでいるからだ。何とか医師を確保しようと、破格の奨学金を設けたり、医学部の地域枠(地元出身者の入学枠)を拡充させたりと行政も手は尽くしている。さらに国は20年来の方針を転換させ、来年は11大学で医学部の入学定員を増加させることを決めたが、効果が現れるかは不透明だ。(名古屋和希、佐渡勝美)

千葉県は来年から、県内に付属病院を持つ東京慈恵医大、東京女子医大、日本医大などの6私大の中から2大学と協定を結び、毎年各大学2人の計4人に、在学6年間で総額3200万円を上限とした異例の奨学金を創設する。奨学生は国立の千葉大学医学部と同等の学費(6年間で約350万円)だけを負担し、不足分を補う3000万円超の高額奨学金は、卒業後に県内の自治体病院などの医療機関に9年間(小児科と産科は7年間)勤務すれば、全額返還が免除される。

全国の都道府県で、人口10万人当たりの医師数が3番目に少ない千葉県では、過疎地から都市部へ医師が流出し続け、昨年3月には県東部の成東病院(山武市)で内科の9人の常勤医全員が辞職。夜間の救急医療体制が崩壊した。その後も、県内では産科や小児科などの診療科を閉鎖する公立病院が相次いでいる。

「一刻も早く自前で医師を供給する仕組みを確立する必要があった」と、千葉県医療整備課の土岐健文・前副課長は奨学金の趣旨を説明する。

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地方の医師不足解消への効果が期待されている地域枠(入学定員の10%前後が主流)の拡充も、2年前から加速している。今年は18大学で地域枠入試を実施し、来年は旭川医大、新潟大、奈良県立医大なども新たに実施する予定だ。

さらに来年からは、弘前大学、三重大学など11大学の医学部で、最大10人、入学定員が増やされる。国は昭和61年以降、厚労省が算出した医師の需給見通しに沿って、医療費抑制と将来の医師過剰を避けるという理由で医学部の定員総数の削減を続けてきた。ピーク時に全国で約8400人にのぼった入学定員は、現在では約7100人(約15%減)になっており、入学定員増は方針転換を意味する。ただ、あくまで国の基本スタンスは「絶対数は足りており、偏在が医師不足の原因」というもので、定員増も最長10年の暫定的な緊急措置だ。

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多くの医療現場の関係者が偏在を加速させた要因としてあげるのが、平成16年の臨床研修必修化に伴って導入された「マッチングシステム」だ。マッチングとは医学生にとって就職活動のようなもので、日本医師臨床研修マッチング協議会に希望などのデータを登録すると、コンピュータが希望に合う(マッチする)研修先を探してくれる。

従来は研修といえば、出身の大学病院で行うことが多かったが、マッチングシステムが導入されてからは学生の視野は全国に及び、基本的に売り手市場(ほぼ9割が第2希望までに入れる)なため、結果として都市部の病院や魅力的な研修プログラムを備えた病院に集中するようになった。

現状を踏まえ、日本医師会の諮問委員会はこのほど、臨床研修を終えた医師のへき地勤務義務化を盛った報告書をまとめたが、強制には反対の声も根強い。

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≪医学部が定員増となる大学≫

【国立】弘前大、秋田大、山形大、新潟大、山梨大、信州大、岐阜大、三重大

【公立】福島県立医大

【私立】岩手医大、自治医大

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 ■人口10万人当たりの医師数(人)

    全 国 211.7

 (1)徳 島 282.4
 (2)鳥 取 280.6
 (3)東 京 278.4
 (4)京 都 274.8
 (5)高 知 273.6
 (6)福 岡 268.0
 (7)長 崎 262.5
 (8)岡 山 258.8
 (9)島 根 253.0
(10)石 川 252.8
(11)香 川 249.7
(12)和歌山 247.8
(13)熊 本 247.5
(14)大 阪 244.6
(15)大 分 238.5
(16)山 口 237.9
(17)広 島 237.0
(18)愛 媛 233.2
(19)富 山 230.4
(20)佐 賀 228.2
(21)鹿児島 224.3
(22)宮 崎 218.4
(23)北海道 216.2
(24)福 井 212.4
(25)兵 庫 207.1
(26)沖 縄 204.9
(27)奈 良 204.3
(28)群 馬 201.4
(29)宮 城 201.0
(30)滋 賀 200.8
(31)栃 木 200.2
(32)山 形 198.8
(33)秋 田 193.2
(34)山 梨 193.0
(35)長 野 190.9
(36)愛 知 184.9
(37)三 重 184.3
(38)新 潟 179.4
(39)岩 手 179.1
(40)福 島 178.1
(41)静 岡 174.9
(42)神奈川 174.2
(43)青 森 173.7
(44)岐 阜 171.3
(45)千 葉 152.0
(46)茨 城 150.0
(47)埼 玉 134.2

※厚労省調べ。平成16年12月31日時点