『東京新聞』2007年3月16日付

地方の中小病院
看護師足りない


看護師不足が一部医療機関で深刻化している。入院患者数に対する看護師数の多い方が、病院収入も増えるよう診療報酬改定で基準が新設され、大病院などが看護師確保に奔走した結果だ。新年度が始まる4月から、地方の中小病院の苦戦に拍車がかかりそうだ。 (鈴木久美子)

沼津市立病院(静岡県沼津市・五百床)は一月、病棟十棟のうち一棟(五十床分)の休止に追い込まれた。六十人の看護師を募集したが、確保できたのは十三人と足りないためだ。

「診療報酬改定の影響を非常に感じている」と井上博文経営管理課長は話す。「東京の大病院が、『ぜひうちに』と看護師養成所を回った。従前なかったこと。そういう病院はうちとはステータスが違うし、新卒看護師は都会への希望も強い。地方はたまらない」

「(初期・緊急患者対象の)急性期医療について、手厚い看護を評価していきたい」(厚生労働省)と昨年行われた診療報酬改定で、急性期医療に取り組む医療機関の入院患者数七人に対し看護師一人を配置するという新基準が設けられた。入院基本料の診療報酬点数が「入院患者数十人に対し看護師一人」よりアップされ、病院にとって一床一日当たり二千八百六十円増収になる。

「人件費を出しても、病院の収入になる」(ある病院)と、必ずしも急性期医療を行わない医療機関も、新基準に対応するため、多くの医療機関同様に積極的な採用活動を展開した。

昨秋同省が実施した募集数調査で、大学病院百二十八カ所で前年比約四千二百人増の約一万三千八百人にのぼり、国立大病院では前年の二倍以上になった。

新診療棟開設も重なり例年より百八十人多い三百人を募集した東大付属病院(千二百十床)は昨年、「看護師確保対策本部」を設置。カラフルなパンフレットを作り、総動員で約五百の看護師養成所を回った。

説明に出向いた先で「『東大が説明に来たのは初めて』と驚かれた」と同病院の櫛山博副院長は苦笑するが、入院基本料の増収は年間九億七千万円になる見込みだ。

名古屋大付属病院(千三十五床)も、体験会や説明会の回数を増やして例年より約六十人多く百六十人を募集し、ほぼ満たした。

「既に『七対一』を実施している病院では、丁寧なケアができ、看護の質が良くなった」と日本看護協会の小川忍常任理事は話す。

だが「七対一など夢の話だ」と北海道羅臼町で唯一の医療機関、同町国保病院(四十八床)の嶌勝彦事務長はため息をつく。看護師十九人のうち四人が今月末で退職するが、補充のめどが立たず、夜間休日の救急受け付けを停止した。「国の施策に田舎の実態は反映されない」

毎年、看護師養成所新卒者の約半数が県外に出る島根県も、一月末に検討会を設置した。

「地域医療への深刻な影響が懸念される」と、診療報酬について検討する国の中央社会保険医療協議会も一月、来年度の改定に向け、基準を見直す方針を示している。