『日本海新聞』2007年3月13日付

いのち見つめて 地域医療の未来
第2部 看護職はいま
(9)大量採用の波

満足与えられる職場か
県外流出を懸念


 「人材を地域に引き留める役目もある」

米子市西町、鳥取大学医学部付属病院の看護師大量採用に対する県内の病院からの批判に、同病院は理解を訴える。背景には、昨年の診療報酬改定に伴って全国の大病院を中心に看護師争奪戦が過熱していることがある。

鳥大病院は今春、約百十人を採用する方針で、二〇〇八年度までに約五百八十人に増員する計画を前倒しで達成できそうだ。

「敷居が高くなっていたので、あらゆる面を見直した」。看護部長の早川幸子は人材確保戦略の効果を強調した。

本年度の採用に当たってはプロジェクトチームを設置。県出身者が多い関西、山陽の看護学校で説明会を開いたり、日曜を含む二日間に採用試験日を増やすなどの対策が功を奏した。

さらに早川は「今年は確保できたけど、むしろ次年度が難しい」と気を引き締める。

7対1看護

鳥大病院をはじめ全国の大学病院や有名病院が看護師の大量採用に動いたのは、看護師一人が受け持つ患者数を七人に減らせば診療報酬が上乗せされ、増員コストを賄うめどが立ったからだ。

県病院局も鳥取市の中央病院と倉吉市の厚生病院で「七対一看護」を目指した。

しかし、欠員補充をやや上回る約六十人の確保にとどまり、懸案の夜勤三人体制は見送り。「一人でも二人でもいつでも来てほしい」。病院局は随時募集を行い、看護師確保に躍起だ。

「看護学校の生徒が流れている」「内定辞退者が出た」。大量採用には批判が出たが、看護師不足は慢性化しており、特に県外流出を懸念する声は以前から大きい。

〇五年度に県内の看護職員養成施設を卒業した三百三十一人のうち、県内就職者は百五十六人で半分に満たない。

鳥大医学部は〇八年度入試から看護学専攻学生の地域枠(十人)の創設を検討し、地元就職を促進する。

重要な人間関係

一方、心配された目に余る「引き抜き」はなかったようだ。

県医務薬事課が昨年十一月、県内四十六病院を対象に行った調査によると、中途退職者数は前年度とほとんど変わっていない。

しかし、看護現場では負担が大きい夜勤を敬遠して転職、離職する例は多く、人材の流動化が進む。

同課は「医療機関は患者だけでなく、看護師からも選ばれるよう特色を打ち出すことが必要」と指摘する。

鳥大病院は、内定者になじんでもらおうと国家試験対策セミナーを開いた。合格にちなんだ五角形の鉛筆をプレゼントしたところ好評だったという。

「ささやかだけど、人間関係が一番でしょう」。看護部長の早川はほほ笑んだ。〇七年度中にはスタッフ向けに二十四時間保育を始める予定だ。

「働く人に満足してもらえる環境をつくらないと」。人材不足解消に本当に必要なのは、「目標とされる現場づくり」ではないだろうか。(敬称略)