『読売新聞』2007年3月13日付

東大解剖――第3部(1)
好奇心旺盛 幼少期から


「東大キッズの生活習慣を身につけて、君も東大キッズになろう」

電源を入れると、人気コミック「ドラゴン桜」の主人公・桜木建二が画面の中で話し始めた。セガトイズの知育ゲーム機「ビーナ」。今月発売されたソフト「できる子になる生活習慣」の最初の場面だ。

ソフトは絵本の形をしており、タッチペンを使ったゲームに挑戦しながら、生活習慣を学んでいく。対象年齢は4歳から。「東大キッズ」とは幼少期の東大生のことだ。このゲームは、東大生と共同で作られた。

ページをめくっていくと、買い物、家事の手伝いといった日常生活や、虫捕りやジャンケンなど、子供の遊びがモチーフになったゲームが楽しめる。セガトイズのエデュテイメントマーケティング部マネジャー、梅沢靖さん(33)は「彼らがいなければ、このゲームは完成しなかった」と振り返る。





彼らとは東大の起業サークル「TNK」のメンバーのことだ。駒場キャンパスの1、2年生ら約50人で活動している。昨年、セガトイズ側から打診を受け、まずデータ集めをした。

東大生の父母約30人に子育てについて語ってもらい、その内容を記録した。東大生自身にもアンケートをした。よく遊んだ場所や子供部屋にあった物、習い事をした経験や食事の時間帯など約20項目を聞き、約1700人から回答を得た。

結果を集計して見えてきたのは、英才教育などではなく、健全な生活習慣の中で育った子供の姿だ。「部屋に地球儀があった」「図鑑や辞典があった」「迷路を自作して遊んだ」「昆虫採集が好きだった」といった特徴があり、好奇心旺盛で活動的な子供像が浮かび上がった。

TNKでソフト開発メンバーに加わった理科1類1年の赤瀬太一さん(20)は「東大生は、決して特別な教育を受けて育ってきたのではない。ゲームを通じて東大を身近に感じてほしい」と願う。





2004年4月に誕生したTNKはこれまで、物理や数学の解説本の出版のほか、受験生向けフリーペーパーの発行、学生向けビジネスプランのコンテスト開催、起業家を招いた講演会などを開いてきた。

最も重視する活動が、毎週開く勉強会だ。企画書の書き方や効果的な発表の仕方を練習したり、机上で企業利益を競い合うビジネスゲームをしたりする。代表の阿久沢栄里子さん(20)(文科3類1年)いわく、「自分たちを鍛え、新しいことに挑戦する力をつける場」。

ソフト開発にしても、初めから幼児教育のノウハウを持っていたわけではない。「きちんと調査をして、結果の検証を徹底的にやった。それだけ充実感もあった」(赤瀬さん)

好奇心を持ち、活動的で、分析好き――。ゲームソフトの中の「東大キッズ」像は、現役の東大生で作るTNKのカラーとも重なりそうだ。(赤池泰斗)

「東大本」続々 受験参考書から子育て論まで、東大をテーマにした本の出版が相次ぐ。東大合格を目指す漫画「ドラゴン桜」がブームとなった2003年ごろから東大関連の書籍が急に増え始めた。東京都内の書店のコーナーには現在も約30点の関連書籍が並ぶ。現役東大生が書いた受験指南本の人気も高いという。