中教審答申 関連社説集
新聞名 題名
産経新聞 中教審答申 再生へ国と教委は協力を
東京新聞 中教審答申 国の関与は時代に逆行
東奥日報 教委への指示」歯止め必要/中教審答申
秋田魁新報 中教審答申 どたばた審議の極みだ
新潟日報 中教審答申  こんな拙速審議では困る
信濃毎日新聞 中教審答申 存在意義を自ら損なう
中日新聞 国の関与は時代に逆行
神戸新聞 中教審答申/「日程ありき」でいいのか
山陽新聞 教育3法改正案 国家統制が露骨ににじむ
中国新聞 中教審の答申 国は口を出し過ぎるな
高知新聞 【中教審答申】あまりに拙速な集約
西日本新聞 突貫審議は納得できない 中教審答申
熊本日日新聞 中教審答申 「ムチ」だけが突出している
宮崎日日新聞 中教審答申 分権の時計の針逆行させるな
沖縄タイムス [中教審答申] 政治的思惑が目立つ

『産経新聞』主張 2007年3月13日付

中教審答申 再生へ国と教委は協力を


教育再生3法改正案の骨子となる中央教育審議会の答申がまとまった。公教育の信頼回復のため、緊急に必要な制度改革であり、早急に実現してほしい。

3法改正案のうち、議論が分かれて問題となったのは、「地方教育行政法」改正案だ。教育委員会に対する文部科学相の是正指示など国の権限強化をめぐって、地方分権の流れに反すると、中教審委員のなかでも反対論が起きたのである。

しかし、いじめ問題で明らかになったように、教育委員会が機能していない現状に対する危機感は、多くの委員が共有しているはずだ。

答申では焦点となった文科相の是正指示権について、「児童生徒の生命、身体の保護」「教育を受ける権利の侵害」などに発動要件も限定している。教育委員会が、いじめや未履修、学級崩壊を放置するなど著しい法令違反があった場合、国の責任を明確にしたもので、安倍晋三首相が法案に盛り込むよう指示したのは当然だろう。

逆に、教育委員会が責任を持って教育改革を進め、公教育再生に取り組んでいる事例は多い。京都市では、学校の自由参観など家庭・地域との連携策のほか、市立堀川高校が進学実績を上げ「公立復権」が全国から注目されている。教育長らがリーダーシップを発揮し、学校の特色をうまく引き出したのである。

国と教育委員会が協力しなければ、教育改革は進まない。

他の「学校教育法」「教員免許法」2改正案も、校長を支える副校長の制度など学校運営を円滑にし、教員の資質向上を促すものだ。一部の教職員組合などから「管理強化」「教員の負担が増える」などの反対もあるが、これでは保護者から共感は得られまい。

答申は、政府の教育再生会議の提言を受けたもので、法案の今国会提出のため、時間が限られ、拙速だという意見もある。しかし、教育施策は、長く先を見通した議論が必要なのは当然とはいえ、中教審の議論は時間がかかりすぎるという批判も強かった。

公教育再生は喫緊の課題だ。学校や家庭、地域全体が連携して教育再生を実現していくため、中教審は再生会議とともに、さらに建設的な教育再生策を考えなければならない。

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『東京新聞』社説 2007年3月13日付

中教審答申 国の関与は時代に逆行


文部科学相の諮問を受けた中央教育審議会が教育三法案について答申した。焦点の国の教育委員会への関与強化は異例の両論併記で容認したが、国の関与強化は教育本来の姿や地方分権に逆行する。

中教審はわずか一カ月で“突貫審議”を終えた。重要な答申は通常一年近くかけて意見をとりまとめるが、異例だ。教育の将来を左右する法律改正に専門的な議論が尽くせたか、委員からも疑問が相次いだ。

急いだのは、「教育再生」を内閣の最重要課題とする安倍晋三首相が、教育再生会議の第一次報告を受けて今国会への法案提出を伊吹文明文科相に指示したからだ。性急な改革には統一地方選や参院選の目玉にする意図が透けて見える。国造り、人づくりの基礎である教育には時間をかけてでも深い議論が求められる。

文科省は首相や文科相の意向も受けて、文科相による教育委員会への是正勧告・指示や教育長任命承認を地方教育行政法に盛り込むよう中教審で提案したが、異論が強かった。

このため、答申では是正勧告・指示とはせず、「児童生徒の生命・身体保護」などに限定して国による措置が必要であるとの慎重な表現にとどまった。同時に「地方分権の流れに逆行する」などの強い反対意見を併記せざるを得なかった。

教育長の任命承認については賛成がなく、答申では見送られた。

答申報告を受けた安倍首相は、答申にあるような場合に限り国の是正指示・要求を法案に盛り込む方針を示した。国による教育管理の強化は首相の持論とされるが、異論に配慮せざるを得なかったともみられる。

一九九九年の地方分権一括法で文科相の是正要求権や教育長任命承認権が削除された経緯がある。現行の地教行法でも文科相は指導・助言・援助はできる。再び文科相の関与強化を認めるのは、自主・自立や創意工夫による教育の地方分権を進めるという流れに相反している。

文科省が国の関与を強めようとしたのは、いじめ自殺や必修漏れで教委が適切な対応をしなかったことを理由にし、教委が「教育の地方自治」を推進するという本来の機能を果たしてこなかったことに問題がある。それは文科省を頂点とする上意下達システムに唯々諾々と従い、教委の当事者意識が薄かったからこそではないか。

国の関与強化で、さらに文科省の顔色をうかがうようになってはいけないし、教委の自主・自立が育たない。教委側は形骸(けいがい)化した会議を活性化し、地方地域にふさわしい教育をつくり出していく必要がある。

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『東奥日報』社説 2007年3月13日付

「教委への指示」歯止め必要/中教審答申


中央教育審議会が地方教育行政法、教員免許法、学校教育法の教育改革関連三法改正の骨子案を、伊吹文明文部科学相に答申した。

焦点となっていた都道府県教育委員会に対する文科相の是正指示権については、多数意見として盛り込んだ。発動については、一定の歯止めをかけるものとなった。

法案化は最終的に安倍晋三首相の判断にゆだねられたが、首相は十二日、いじめなど緊急を要する問題について是正指示権を改正案に盛り込むよう文科相に指示した。

教育再生会議の報告を受けて文科省が当初、中教審に示していた地方教育行政法の改正の骨子案には、次の三点を盛り込んでいた。

教委が著しく不適正な場合、文科相が是正勧告・指示ができるようにする。教育長人事に国が関与する。私立学校に教委が指導・助言できるようにする−という内容だ。

今回の答申は、教育長について国が任命に関与する「任命承認制度」には、賛成意見がほとんどなかったとして見送った。私学への指導・助言は、私学の自主性を尊重し首長の求めに応じ「助言・援助」できるとし、「指導」を外した。適切な判断だと言える。

「法令違反などがある場合」に文科相が発動する教委への是正指示などには、地方六団体代表の委員たちが、地方分権に逆行する−と反対、慎重意見が強かった。

そのため答申では、現在でもできる地方自治法による是正要求を当然とした上で、国が指示できるような制度の新設には、「強い反対意見が出た」ことを併記。発動についての“条件”を挙げていた。

「児童生徒の生命や身体の保護のため緊急の必要があるなど極めて限定された場合、何らかの措置(指示など)ができるようにする」というものだ。

「措置の際、専門家で構成される調査委員会などの報告を参考にすべきだとの意見も出た」と付け加えていた。

教委への国の関与は、いじめによる自殺、高校の未履修問題などで教委が適切に対応できなかったことが背景にある。教委は、もっと当事者意識と能力を高める必要があろう。

いじめなど「緊急の必要がある場合」について、地方教育行政法の改正案に、具体的に書き込んでもらいたい。国の過剰な関与はないということを担保しなければならない。

答申はほかに、教員免許法に教員免許の更新制、指導力不足教員の人事管理強化などを、学校教育法には副校長・主幹の新設などを盛り込んだ。

一月に教育再生会議が出した第一次報告を受けて、安倍首相が伊吹文科相に三法案提出を指示。中教審は、文科相の諮問から約一カ月という異例のスピード審議で答申した。

政府は、今月中に三法の改正案を閣議決定し、今国会に提出する方針だ。

野党も早く対案を出してもらいたい。教育は、国づくりの根幹となるものだ。広く論議を巻き起こし、国民の関心を高めていくべきだ。

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『秋田魁新報』社説 2007年3月13日付

中教審答申 どたばた審議の極みだ


どたばた審議の末、急ごしらえでまとめ上げた結論と受け止めざるを得ない。

文部科学相の諮問機関・中央教育審議会(中教審)が、わずか1カ月足らずの審議で教育関連3法の改正案を答申した。通常、1年以上かかることからすれば、異常な早さである。

しかも今回は、今後の教育に重大な影響を及ぼしかねない審議課題がめじろ押しだった。いつにも増して慎重かつ深い議論が求められていたのだ。

教育は100年の大計。もとより熟考が欠かせない。拙速答申がどんな結果を招くのか。不安を覚えないわけにはいかない。

急いだ理由は明らかだ。教育改革を政策の目玉とする安倍政権の意向に沿い、法案提出期限に間に合わせたとみていい。

つまり、4月の統一地方選や7月の参院選をにらみながら、政権浮揚を狙う安倍晋三首相が教育改革という成果を急いだ結果であり、当初から「日程ありき」だったのである。

中教審は文科省の追認機関と批判される場合が少なくない。しかし、今回の答申によって、文科省はおろか、政権そのものの下請け機関化が一層進んだといわれても仕方がない。

この意味は決して小さくない。その時々の政権の意向や思惑によって、教育が度々変えられる危険性が高まったのだ。

審議が政治的思惑で進められた分、答申の中身にも大いに疑問が残る。安倍政権の考えを追認する格好で、国の権限強化が色濃い内容となったのだ。

焦点の教育委員会(教委)改革では、反対意見を併記したものの、文科相の是正指示権が多数意見として盛り込まれた。

確かにいじめ自殺の隠ぺいをはじめ、教委に問題がないわけではない。しかし、教委の機能不全はむしろ、文科省を頂点とする上意下達の集権的構造に主因があるのではないか。

文科省が是正指示権によって関与を深めれば深めるほど、教委は依存体質を強め、ますます主体性を失うことになる。

教員免許の更新制や指導力不足教員の人事管理厳格化も、運用の仕方によっては、児童・生徒にとって不適格な教員の質向上というより、学校や教委にとって不都合な教員を排除する口実となる危うさを秘める。

国の権限強化とは詰まるところ、国による教育の管理強化であり、安倍首相の特色である強硬路線の表れでもあるのだ。

管理が強まれば、教委や学校、さらには教員が自由闊達(かったつ)さをなくし、委縮へと向かいかねない。そんな状況下で学校や教員らは、主体性のある心豊かな児童・生徒をどうはぐくめばいいのか、思い悩むに違いない。

国の関与強化によって山積する教育課題の何がどのように改善されるのか、検証されなかったのはもっと問題だ。

適切な処方せんとの確認がないまま、やみくもに法改正だけが進められるとすれば、教育再生など到底おぼつかない。

教育は政治的に中立でなければならない。しかも、教育が成果を挙げるには長い年月が必要であり、度々の改変は教育現場に混乱をもたらすだけである。この基本的な事柄も再認識すべきであろう。

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『新潟日報』社説 2007年3月13日付

中教審答申  こんな拙速審議では困る


審議開始から一カ月、あっという間に答申にこぎ着けた。精力的に討議したといえば聞こえはいいが、拙速以外の何ものでもない。国会審議に間に合わせることを最優先にするようでは中教審の名が泣くのではないか。

第四期の中教審委員が任命されたのは二月一日である。審議が始まったのは六日からだ。過去に例のないスピード答申である。

第三期審議会が一月三十日に答申した「次代を担う自立した青少年の育成について」は、二代前の中山成彬文部科学相が二〇〇五年六月に諮問した案件だ。同時に諮問した「生涯学習について」はまだ中間報告の段階だ。これが中教審の通常ペースである。

まして、今回の審議は学校教育法など教育関連三法案の改正を伴う重要なテーマが中心である。単に時間を確保するだけでなく、国民各層の意見を聞きながら議論を深めるべきだった。

焦点となっていた都道府県教育委員会に対する文科相の是正指示権について、両論を併記せざるを得なかったのも議論不足のためである。多様な意見を戦わせ、結論を一つにまとめ上げていく過程こそが重要なのだ。

文科省はいじめ問題や未履修問題で集中砲火を浴びた。それなのに今回の答申は、教員免許の更新制を導入したり、教委への指導監督権限を強化したりするなどの内容となった。文科省の「焼け太り」は明白だ。

三十人いる委員のうち、十四人は新任の委員である。各界で活躍している人たちだといっても、たった一カ月ほどで教育行政に精通するのは無理だろう。スピード答申を可能にした背景に、文科省の「強い指導と助言」があったと見て間違いあるまい。

安倍晋三首相は教育改革を政権の最重要課題に掲げている。昨年の教育基本法改正はその第一弾だ。教育関連三法が改正されれば、学校現場は新しい法体系の下で動きだすことになる。

いじめや学力不足、保護者と学校の断絶など、教育を取り巻く環境は極めて厳しい。国が関与を強めれば解決できるという問題でもない。中教審は「教育改革には何が必要か」の検証から始めるべきではなかったか。

「疾風迅雷のでき」と自賛する山崎正和会長だが、内心じくじたるものがあるのではないか。官邸や文科省が書いたシナリオを追認するだけなら中教審などいらない。山崎会長のリーダーシップが問われている。

地方代表委員をはじめ、答申に不満を漏らす委員は少なくない。法案づくりや国会審議まで拙速であってはならない。国と地方の関係にも大きな影響を与える法案だ。国民に開かれた議論を強く求めたい。

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『信濃毎日新聞』社説 2007年3月13日付

中教審答申 存在意義を自ら損なう


教育関連三法案をめぐる中央教育審議会の審議は、異例ずくめだった。

教員免許の更新制や教育委員会と国との関係など、教育の根幹にかかわる問題なのに、わずか1カ月余で答申した。意見がまとまらず、反対を併記した項目もある。政治日程に合わせた急ごしらえの答申を出しているようでは、中教審の存在意義が問われる。

これで審議を尽くしたとはいえない。結論を急ぐあまりに、生煮えの法案を今の国会に提出することは慎むべきだ。

2月に新体制が発足したばかりの中教審に諮問されたのは、三つの改正法案だ。教育委員会制度を見直す地方教育行政法。教員免許を10年で更新制にする教員免許法。「愛国心」などを教育目標に盛り込む学校教育法。いずれも教育現場に直結する重要な法案である。

伊吹文明文部科学相は1カ月ほどでの答申を求めた。参院選をひかえ、教育関連法案を今国会で成立させたい安倍政権の狙いを強く反映した諮問だった。

最大の争点は、教育委員会改革である。当初案には都道府県教委の教育長人事に国が「一定の関与」をすることや、私学への指導・助言・援助、都道府県教委への国の是正指示権などが含まれていた。

これに対し、地方や私学の反発が強く、人事への関与と私学への「指導」の部分は削られた。教員の人事権を市町村教委に移譲する方針もあったが、意見の隔たりが大きく結論を出していない。

是正指示権については「児童生徒の生命や身体の保護のため緊急の必要があるなど極めて限定された場合」と条件付きで認めた。一方で、地方分権に逆行するといった反対意見を加えている。

地方の反対の声を答申に反映させるなど、中教審は一定の役割を果たしたといえる。しかし、専門的な立場から丁寧な論議をする責任があるのに、あわてた論議で結論を出し、将来に禍根を残した。

その結果、出てきたのは文科省の権限強化である。

もともと、教委改革はいじめの問題や、高校の未履修問題への対応のまずさから浮かび上がってきたものだ。文科省がいじめ自殺の実態を隠してきたり、未履修問題に手を打ってこなかった責任はあいまいにしたまま、国から地方への指導強化ばかりが目につく。

教委の活性化ならば、委員の選び方など、検討すべき点は多数ある。上意下達の仕組みを強めても、いまの学校がよくなるとは思えない。結局得をしたのは文科省、では何のための改革なのか分からなくなる。

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『中日新聞』社説 2007年3月13日付

国の関与は時代に逆行


文部科学相の諮問を受けた中央教育審議会が教育三法案について答申した。焦点の国の教育委員会への関与強化は異例の両論併記で容認したが、国の関与強化は教育本来の姿や地方分権に逆行する。

中教審答申

中教審はわずか一カ月で“突貫審議”を終えた。重要な答申は通常一年近くかけて意見をとりまとめるが、異例だ。教育の将来を左右する法律改正に専門的な議論が尽くせたか、委員からも疑問が相次いだ。

急いだのは、「教育再生」を内閣の最重要課題とする安倍晋三首相が、教育再生会議の第一次報告を受けて今国会への法案提出を伊吹文明文科相に指示したからだ。性急な改革には統一地方選や参院選の目玉にする意図が透けて見える。国造り、人づくりの基礎である教育には時間をかけてでも深い議論が求められる。

文科省は首相や文科相の意向も受けて、文科相による教育委員会への是正勧告・指示や教育長任命承認を地方教育行政法に盛り込むよう中教審で提案したが、異論が強かった。

このため、答申では是正勧告・指示とはせず、「児童生徒の生命・身体保護」などに限定して国による措置が必要であるとの慎重な表現にとどまった。同時に「地方分権の流れに逆行する」などの強い反対意見を併記せざるを得なかった。

教育長の任命承認については賛成がなく、答申では見送られた。

答申報告を受けた安倍首相は、答申にあるような場合に限り国の是正指示・要求を法案に盛り込む方針を示した。国による教育管理の強化は首相の持論とされるが、異論に配慮せざるを得なかったともみられる。

一九九九年の地方分権一括法で文科相の是正要求権や教育長任命承認権が削除された経緯がある。現行の地教行法でも文科相は指導・助言・援助はできる。再び文科相の関与強化を認めるのは、自主・自立や創意工夫による教育の地方分権を進めるという流れに相反している。

文科省が国の関与を強めようとしたのは、いじめ自殺や必修漏れで教委が適切な対応をしなかったことを理由にし、教委が「教育の地方自治」を推進するという本来の機能を果たしてこなかったことに問題がある。それは文科省を頂点とする上意下達システムに唯々諾々と従い、教委の当事者意識が薄かったからこそではないか。

国の関与強化で、さらに文科省の顔色をうかがうようになってはいけないし、教委の自主・自立が育たない。教委側は形骸(けいがい)化した会議を活性化し、地方地域にふさわしい教育をつくり出していく必要がある。

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『神戸新聞』社説 2007年3月13日付

中教審答申/「日程ありき」でいいのか


文科相の諮問機関、中央教育審議会が教育関連三法の改正について答申した。

政府が改正を目指す三法は、地方教育行政法、教員免許法、学校教育法だ。なかでも、焦点の教育委員会改革を盛り込んだ地方教育行政法は意見対立があったものの、先に政府の教育再生会議が打ち出した、教委への国の関与を容認する内容となった。

諮問からわずか一カ月、通常なら一年かかりそうな検討を集中審議でこなし、答申を出した。会長ら多くの委員が交代して間がない中、今国会での改正法成立を望む政府にスピード決着を迫られた形だ。

文科相が都道府県教委に是正を指示できる権限を与えるかどうかは、大きく意見が分かれてきた。是認する教育再生会議に対して、規制改革会議や、全国知事会など地方六団体は、地方分権の流れに逆行すると反対してきた。

結局、答申は教委への国の関与について反対意見も併記する形になったが、論議をどこまで煮詰めた上での結論なのか。「日程ありき」の審議というべきで、拙速のそしりは免れないだろう。

是正指示をめぐる文科相の権限は、八年前に法律から削除されたばかりだ。なのに、国が復活へかじを切ろうとするのは、教育委員会側にも原因がある。

昨年、いじめ自殺や高校必修科目の未履修が大きな問題となった。教委が取ってきた措置や対応を振り返っても、改革なしでは済まないことをうかがわせる。かといって、国の関与が復活するだけで、教委制度が大きく改善されるとも思えない。

教委への風当たりは強まっており、規制改革会議は自治体の教委設置義務の撤廃すら求めた。教委のあり方はもっと時間をかけて、徹底的に論議すべきではないか。

他の二法の改正答申は、再生会議の報告とほぼ重なる。教員免許法は免許更新制や指導力不足教員の管理強化を目指し、学校教育法は義務教育目標に「国と郷土を愛する態度の育成」などを盛り込んだ。

免許更新制は極めて大きな改正となる。導入には多大な労力と費用がかかるが、それに見合う新制度なのかは見えてこない。問題教員の「排除」は現行制度でも可能だし、教員の質向上なら研修の充実で対応できるのではないか。今一度、教育現場を巻き込んだ議論を尽くすべきだろう。

いずれにしても、国の教育行政を左右する重要な諮問機関が、独自に判断したという手応えがない。法制化は安倍首相の最終判断に委ねられるという。これでは、あまりに政官主導の答申というほかない。

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『山陽新聞』社説 2007年3月13日付

教育3法改正案 国家統制が露骨ににじむ


中央教育審議会(山崎正和会長)が、都道府県教育委員会に対する文部科学相の是正指示権創設などを多数意見として盛り込んだ地方教育行政法など教育改革関連三法の改正について伊吹文明文科相に答申した。改正法案は今月中に国会に提出される予定だ。

わずか一カ月余の審議、論議も煮詰まらず答申は反対意見を併記するという異例ずくめだが最終的に「教育に国が責任を負える体制を構築していくことが必要」と国の関与強化を容認する内容となった。教育行政の国家統制を強める狙いが露骨ににじんでいる、といえよう。

教育再生を最重要課題に掲げる安倍晋三首相は教育再生会議の第一次報告とそれに続く提言を受け、伊吹文科相に三法改正を指示していた。

再生会議は、教委の活動が著しく適正を欠き、教育本来の目的を阻害している場合に「文科相に是正を勧告、指示する権限を与える」とした。中教審でもこの取り扱いが焦点となった。是正指示権は一九九九年成立の地方分権一括法に伴い、地方教育行政法から類似の是正要求権が削除された経緯がある。全国知事会などから「地方分権に逆行する」と反対意見が出された。当然だ。委員の一人、石井正弘岡山県知事は最後まで反対し「文科省が権限を拡大する『焼け太り答申』だ」と語ったが、その通りだろう。

結局、答申では反対論を併記せざるを得なかった。また、是正指示権の発動も「児童生徒の生命や身体の保護のため緊急の必要があるなど極めて限定された場合」と一定の歯止めを掛けた。しかし「地方公共団体に何らかの措置(指示など)ができるようにする」が多数意見であるとし国の関与強化を容認した。

そもそも、いじめ自殺や履修単位不足問題が論議の発端だったが、法改正で問題解決できるのか。実質的な討議時間もなく、何ら検証されていない。教委への関与だけではない。私立学校への助言・援助、教員免許法では教員免許の更新制導入、学校教育法では国と郷土を愛する態度の育成なども盛り込まれる。地方、学校現場、個々の教員を上意下達で従わせるようなシステム構築の意図が透けて見えよう。これで教育現場が活性化されるとは思えない。

中教審は数カ月から一年をかけ全会一致を原則としてきたが、それが覆された。三法改正は参院選で安倍カラーを打ち出すため不可欠かもしれないが、中教審が首相の私的諮問機関である教育再生会議の追認機関として扱われた形だ。中教審の存在が厳しく問われてしかるべきだ。

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『中国新聞』社説 2007年3月13日付

中教審の答申 国は口を出し過ぎるな


教育三法の見直しを審議していた中教審の答申がまとまった。教育への国の関与を強める内容で、現場の息苦しさが増すのではないか。安倍晋三首相は、法案を今国会に提出する方針だ。徹底的に論議を尽くさなければ悔いを千載に残す。

焦点となっていたのは、都道府県教委に対する国の口出しだ。

「児童生徒の生命や身体の保護のため緊急の場合」など極めて限定的ではあるが、国は教委に対して是正指示ができるようにする―との多数意見を盛っている。

まるで二〇〇〇年の地方分権一括法で廃止された権限を復活させたかにみえる。子どもの命が脅かされる事態になっても地方には当事者能力がない、と言われているのと同じことだ。見くびられたものである。

確かにいじめなどでの各地の教委の対応はひどかった。しかしその根を探ると、文科省の縛りの中で生まれた委縮や事なかれ主義が浮かび上がってくる。教委が最終責任を持っていたら、もっと違う展開があったかもしれない。

教委に対しては上から枠をはめるのではなく、むしろ自主性を尊重し、機能不全に陥ったときには答申で例示しているような「第三者チェック」が地域できっちり働くような仕組みをつくるのが、分権時代の在り方と考える。

答申はほかにも「教員免許更新制を導入する」「副校長や主幹などのポストを新設する」などを挙げている。原案にあった「私立学校への指導」などはさすがに排除されたものの、総じて管理的な色彩が濃い。

数カ月から一年かけてじっくり話し合いを重ねたこれまでの審議と違って、今回は首相の指示を受けてわずか一カ月余で終結した。結論も首相の意向に引きずられた印象がある。

教育の論議は本来、現場をよく知っている人が、子どもや親が何を望んでいるか、どんなサポートが必要かという現実を提示し、そこから話をスタートさせるべきだろう。そのプロセスを省いて出された答申が、効果的な処方になりうるだろうか。

反対意見も付された「是正指示」について首相はきのう、法案に入れ込むことを伊吹文明文部科学相に指示した。急いで準備される条文だけに国会で十分な審議が望まれる。与野党とも「これで本当に現場は元気になるのか」と目線を低くしてよく考えてほしい。

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『高知新聞』社説 2007年3月13日付

【中教審答申】あまりに拙速な集約


「教育の番人」というには、あまりに乱暴な意見集約ではないか。

中央教育審議会が、都道府県教育委員会に対する文部科学相の是正指示権などを多数意見として盛り込んだ教育改革関連3法の改正骨子案を答申した。

中教審の審議はわずか1カ月ほどだった。是正指示権に「強い反対意見も出た」と答申に併記する結果となったことなどが、「消化不良」を物語っている。

「拙速審議」となったのは、今国会の改正法案提出という政治日程に影響されたためだ。専門家集団として教育行政ににらみを利かせてきた中教審が、政権の「追認機関」と化した印象をぬぐえない。

安倍政権の意向を色濃く反映した答申は、いじめ自殺や単位未履修をめぐる教委の不手際など、一部の極端な事例への対症療法として浮上してきた。確かに教委の側に隠ぺい体質や事なかれ主義など、反省と改善を迫られる面があろう。

ただし、未履修問題では文部科学省も事態の一端を把握しながら、有効な手だてを打てなかった。教委の対応だけをやり玉に挙げ、国の権限不足を強調するのは通らない。

是正指示権は、地方分権一括法に伴って廃止された権限の復活で、分権の流れにも逆行する。ここぞとばかり権限拡大を図るのは文科省の「焼け太り」というほかない。

教育の諸問題は国の統制強化で解決できるほど単純ではない。これまでも文科省の指導という「集権体質」が、教委を締め付けてきた側面がある。このうえ上意下達のシステムを強化しては、教育現場がさらに振り回されかねない。

地方の教育行政に必要なのは、住民参加などを通じて教委が閉鎖的体質を改め、問題を自主的に解決する仕組みを整えることだろう。国に求められるのは、地方の主体的活動への助言や支援による後押しだ。

指揮監督といった権力的作用は、教育が中立性を保てず、「政治の道具」となる危うさをはらむ。

中教審答申の「下敷き」となる提言をまとめた政府の教育再生会議にしても、議論不足は否めなかった。「激しいアピール」の提起自体が「目的化」しているように見える。

これほど教育行政の根幹にかかわる問題を扱うには、多角的に掘り下げた検証や論議が不可欠のはずだ。改正法案提出の最終判断は安倍首相に委ねられるが、首相は慎重の上にも慎重を期さねばならない。

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『西日本新聞』社説 2007年3月13日付

突貫審議は納得できない 中教審答申


諮問から答申までわずか1カ月の「突貫審議」で、教育制度の根幹を改める政府の方針にお墨付きを与えていいのか。強い疑問と懸念を抱かざるを得ない。

地方教育行政法など教育関連3法改正案を審議してきた中央教育審議会(中教審)が、都道府県の教育委員会に対する文部科学相の是正指示権など国の権限強化を認める答申をまとめた。

「国の統制を強めることが、本当の教育改革に結び付くのか」「地方分権に逆行するのではないか」。地方6団体や政府の規制改革会議などから反対論が相次ぎ、国民の疑問は解消されるどころか、逆に膨らんできたとさえ思われる。

中教審の山崎正和会長は「拙速ではなく、疾風迅雷で出来上がった」と答申を自賛したが、率直に言って説得力に乏しい。むしろ、答申に反対した石井正弘・岡山県知事の「文科省の権限を拡大する焼け太り答申だ」という論評が、問題の本質を突いているのではないだろうか。

地方分権改革で、国が教育委員会に是正要求する権限は廃止された。それを今になってなぜ、事実上復活させようとするのか。

伊吹文明文科相は、いじめ問題への対応や高校必修科目の未履修問題で教育委員会の不手際が浮き彫りになったことを引き合いに出し、「やはり伝家の宝刀は必要だ」という。

だが、一連の教育問題で機能不全と指摘されたのは、地方の教育委員会だけではない。その教育委員会を指導・助言する立場にある文科省の隠ぺい体質も国民から厳しく批判されたではないか。

文科省の権限を今以上に強め、教育委員会に「にらみ」が利くようになれば、教育が抱えるさまざまな問題は解決へ向かうとは、到底思えない。

ましてや安倍晋三首相直属の教育再生会議が提言したことを幸いに、かつて手放した権限を再び手中に収めたい‐という魂胆が文科省にあるとすれば、まさに「焼け太り」との批判は免れまい。

国の権限強化を盛り込んだ中教審答申は「多数意見」とされ、反対意見も書き込む異例の両論併記となった。首相や文科相が区切った法案提出の「締め切り」に追われ、議論が生煮えだったことの証左にほかならない。

文科相による都道府県教育長の任命承認を復活させる制度は、さすがに見送られた。当然の判断といえるだろう。

中教審答申を受け、政府は与党との協議も踏まえて、今月中に3法改正案を閣議決定し、今国会へ提出するという。

中教審で議論が始まったとき、私たちは社説で「急(せ)いては事を仕損ずる」と拙速を戒めた。工期短縮を最優先する突貫工事は危険な手抜き工事を誘発することを、私たちは経験的に知っている。

政府と与党、そして国会は、突貫審議の教訓と反省も踏まえ、腰を据えて教育改革の論議を尽くしてもらいたい。

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『熊本日日新聞』社説 2007年3月13日付

中教審答申 「ムチ」だけが突出している


政府の教育再生会議の第一次報告を受け、中央教育審議会(中教審、山崎正和会長)は、今国会に提出する教育改革関連三法改正の骨子案を答申した。二月上旬から一カ月余りのスピード審議の結果、答申は、再生会議が打ち出した教育現場への国の関与強化をほぼ容認する内容になっている。

焦点となっていた都道府県教育委員会に対する文部科学相の是正指示権は多数意見として了承。一部委員の反対意見も盛り込む異例の両論併記にはなったものの、最終的には安倍晋三首相の判断で地方教育行政法改正案に盛り込まれる見通しだ。

また、教員免許法には教員免許の更新制や指導力不足教員への厳格な人事管理を、学校教育法には副校長・主幹などの新設や義務教育の目標に「国と郷土を愛する態度」を盛り込むことなどを提言している。

しかしこれは、一体何を目指した法改正なのだろう。学級崩壊やいじめによる自殺、高校必修科目の未履修に至るまで、教育現場が抱え込んだ深刻な現実に対する効果的な処方せんになっているのだろうか。

約百万人の現役教師に直接かかわる教員免許の更新制にしても、現職だけで毎年約十万人が三十時間の講習を受け、修了認定されなければ免許を失う。いまでさえ時間に追われ、疲弊する現場教師にとっては新たな足かせだ。

日本の国内総生産に占める公教育費の割合が先進国中最低レベルであるという現実や、地域社会や家庭の変化には触れないままに、都道府県教委や教師に対する「ムチ」だけが突出する答申の方向性には強い違和感を覚える。

安倍内閣が最重要課題とする教育再生で、国の関与強化が浮上してきた背景に昨年の教育基本法改正があることは明らかである。さらに、いじめによる自殺や未履修問題などで高まった教委批判も追い風になっているようだ。

しかし、教委の機能低下が事実だとしても、原因は国の関与がなかったことにあるのだろうか。例えば未履修問題が他県に先駆けて問題化していた熊本県教委では近年、事前チェックを徹底することで未履修科目の発生を防いできた。二十八日の中教審・合同分科会に出席した柿塚純男県教育長はこうした取り組みを説明。教委の機能低下という課題設定そのものに疑問を投げかけている。

二〇〇五年十月の中教審答申「新しい時代の義務教育を創造する」は、子どもたちの「人間力」を豊かに育てるため、市区町村と学校の権限を拡大し、教育分野でも分権改革を進めるとしていた。ところが今回の答申に盛り込まれた文部科学相の是正指示権は、時計の針を逆戻りさせた観がある。

「国家百年の大計」と言われる教育は慎重に審議すべきだが、安倍首相はあらかじめ関係法改正案の「今国会中の提出」を表明し、答申はこれを受け”突貫工事”でまとめられた。

教育再生を「戦後レジーム(体制)からの脱却」の目玉としたい首相の意欲は分かるとしても、現場の実態や意見を十分にそしゃくしないままの法改正は、やはり拙速のそしりを免れないだろう。

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『宮崎日日新聞』社説 2007年3月13日付

中教審答申 分権の時計の針逆行させるな


中央教育審議会が安倍政権の目玉である教育関連3法の改正案について答申をまとめた。

答申では焦点だった文科相の教育委員会への是正指示権を盛り込む意見が「多数」だとした。官邸の教育再生会議が提起した「国の関与強化」を実質的に追認する内容。地方に配慮して反対論も併記したが、最終的には「首相の判断」でそのまま法制化の見通しだ。通常、答申まで約1年かかるのだが、今回は一カ月足らずの“突貫審議”。法案提出期限に合わせて慌てて答申をまとめたのが実際のところだ。政府との距離を置くことで権威を保ってきた中教審はもはや、政権の下請け化したとの印象は免れない。

■権力的な是正指示■

文部科学省が教育再生会議の報告を受けて、中教審に当初示した地方教育行政法の改正案骨子には(1)教育委員会が著しく不適正な場合、文科相が是正勧告・指示できるようにする(2)教育長人事に国が関与する(3)首長部局管轄となっている私学に教委が指導・助言できるようにする―という内容が盛り込まれた。

いじめや自殺問題などで浮かび上がった教委批判を背景に、国の教委への関与を大幅に強めるというものである。その中でも、是正指示は文科相の指示通りの措置を取らせるという極めて権力的なやり方だ。

大事なのは、教委の機能不全は国が関与できないから起こっているわけではないことだ。当事者意識の欠如や隠ぺい体質などはむしろ、文科省を頂点とする上意下達の集権的構造の中で染み付いたものである。

国が関与すればするほど依存体質は強まり、当事者意識は育たない。「地方分権に逆行」「私学の独自性が失われる」―。こんな反論が地方団体や私学委員から相次いだのも当然だろう。

■自治体自らの責任で■

答申には国の教育長人事への関与や教委の私立学校への指導権限などは見送ったが、文科省による教委の是正指示権に道を開いた。

中教審は2年前、「教育行政における国と地方の関係については指揮監督による権力的な作用より、指導・助言や援助による非権力的な作用によって、地方の主体的活動を促進することが基本」としていた。これが今回、なぜ是正指示なのか。

中教審はその発動要件を「生命身体の保護に緊急の必要がある場合や教育を受けさせる義務が果たされない場合など」と限定する考えも示している。だが、国の関与という流れの中で実際にどこまで歯止めがかけられるのか。

問題があれば、国が出ていくという安易なやり方を断ち切ることだ。教委への住民参加などを進め、自治体自らが決定し、自ら責任を取る仕組みをつくらなければ、地方分権は絵に描いたもちである。一歩前進した時計の針を逆行させてはならない。

教員免許法改正案の免許更新制も疑問が多い。毎年、現職だけでも約10万人が30時間の講習を受け、修了認定されないと免許を失う。質向上が目的というが、教職に新たなハードルを課すことに変わりない。

教育再生会議の「ダメ教師排除論」など教育現場への厳しいイメージが広がる中、国立大入試の教員志願倍率も低下している。現場を委縮させたり、優秀な学生が先生への道を敬遠したりするようなことになってはならない。

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『沖縄タイムス』社説 2007年3月12日付

[中教審答申]
政治的思惑が目立つ


中央教育審議会が伊吹文明文科相に答申した地方教育行政法(地教行法)、教員免許法、学校教育法の教育改革関連三法を見ると、なぜここまで国の権限を強化しなければならないのか不思議でならない。

もし教育再生会議(座長・野依良治理化学研究所理事長)が提起した「国の関与」を強めることをあえて意図したのであれば稚拙であり、このこと自体、教育現場に不信と不安をもたらす要因になるのを認識する必要がある。

地教行法改正案は、国による是正指示を「法令違反などがある場合」に限定し一定の歯止めをかけた。

だが、国の関与を強めたいとする文科省に対して、実際に各自治体がどこまで押しとどめることができるのか疑問も残る。

国会での審理を見定めなければならないが、「問題が起これば国が出る」という仕組みを安易につくってはならず、この動きを厳しく監視していく必要があろう。

そもそも私たちが求めたのは、学校現場で起きているいじめや児童生徒の自殺問題、さらに言えば学力低下をきちんと論議する姿勢ではなかったか。

何が原因でいじめが起こり、最悪の事態として自殺に至るのか。それを防ぐために親や地域、学校現場で何が必要なのか。

言葉を換えれば「何が欠けている」からこのような問題が発生するのか―という疑問の徹底検証である。

その一つ一つを中教審はきちんと論議したと言えるのだろうか。

実質審議がわずか一カ月しかなかったことを考えれば、今国会への法案提出期限から逆算して一気にまとめあげたとしか思えない。

つまり教育の根幹にある課題をきちっと検証せず、ただ、いじめ自殺の隠ぺいや高校世界史などの未履修問題はじめ一部の極端な事例に対する対処療法として、法案化を目指しているようにも映る。

これでは「木を見て森を見ず」ではないか。この現状を中教審委員、文科省は国民にどう説明するのだろう。

政府は三法改正案を今月中に閣議決定し国会に提出する方針だという。

だが、一部の委員が指摘したように、短期間でまとめられた答申をそのまま政府与党が数の力で押し切ろうとすれば将来に禍根を残しかねない。

教育が国家百年の大計であればなおさらだ。拙速で事を運んではなるまい。この問題は教育現場でも意見を交わすべきであり、政治的な思惑を先行させては健全な教育改革はできないことを認識すべきだ。

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