『朝日新聞』社説 2007年3月9日付

LEC大学―学生がかわいそうだ


LEC東京リーガルマインド大学は、司法書士などの資格試験の予備校を経営する株式会社によって設立された。そうした資格が大学でも取れると大学案内でうたっている。

このLEC大に対し、文部科学省が改善を勧告し、大学は対策をまとめた。

大学としての最低限の教育や研究を保証するため、03年、文科省が大学に勧告や変更命令を出せるようになった。そうした是正措置の初の適用である。

文科省が指摘した問題点は、これが大学なのか、と耳を疑うような内容だ。

専任教員の6割は勤務の実態がない。ビデオを流すだけの授業が多く、学生は授業中に質問もできない。大学の専門科目を予備校と同じテキストで予備校生と一緒に教える授業が目立つ。

大学の改善策は次のようなものだ。

専任教員に数えるのは、大学で教える教員だけとする。学部長を任命し、教授会を毎月開く。ビデオ授業は大幅に減らし、補助教員を置いて質問に応じる。予備校とは違うカリキュラムにする。

いずれも、大学を名乗るなら当然のことばかりだ。看板だけの大学だった、と言われても仕方あるまい。

LEC大のずさんな運営は、04年春に開校した時から指摘されていた。しかし、文科省が調べて勧告するまでに3年近くかかった。今後は改められるにしても、在校生は救われない。この際、学生を守る仕組みを強める必要がある。

「事前規制から事後チェックへ」という社会の流れの中で、大学の設置審査は緩やかになった。教育の質を保つことは、開校後の是正措置や第三者機関による認証評価にゆだねられた。

大学に求められることは、以前よりも多様化している。門前払いすることなく、ユニークな大学に門戸を広げることは、時代の要請だろう。

だが、それは事後チェックがうまく働くことが前提だ。是正措置は発動までに時間がかかる。認証評価は7年に1度しかない。しかも全大学を7年で一通り評価できるかどうかも危ぶまれている。

こうした現状では、問題がありそうな大学については、入り口の設置審査を厳しくするしかあるまい。

教員の構成や一人ひとりの業績をきちんと審査する。詳しい授業計画を出させる。教育と研究の場所や環境を実地調査する。そんな方法が考えられる。

学校の設置者は国や自治体、学校法人に限られるが、構造改革特区では株式会社も認められている。LEC大はその第1号だ。特区を申請した自治体も、大学の運営が計画通りかどうかを見届ける責任がある。

学校法人が設立した大学にも問題がないわけではない。大幅な水増し入学を繰り返してきた大学もある。逆に定員割れで経営が苦しい大学もある。

問題のある大学には、もっと目を光らせ、早めにふるいに掛けて退場させる。そんな工夫が求められている。