『読売新聞』社説 2007年3月6日付

[株式会社大学]「『大学』を名乗るからには……」


これが「大学」の教育かと、誰もが首をかしげたのではないだろうか。

文部科学省から学校教育法に基づく改善勧告を受けたLEC東京リーガルマインド大学が、今後の措置を盛り込んだ報告書を文科省に提出した。

LEC大学は、構造改革特区制度を利用した株式会社設立大学の先駆けとして資格試験対策の予備校の経営者が、2004年に開校した。東京都千代田区をはじめ全国14か所にキャンパスがある。

大学生と予備校生が一緒に授業を受けたり、教員を配置しないビデオだけの授業が行われたりしていた。

専任教員173人中、106人が全く授業を担当せず、大学で研究活動も行わない名前だけの存在だった。

大学設置基準違反に当たる教員不在のビデオ授業と、専任教員の2点に絞って改善が勧告された。

特区法は、株式会社設立校の経営に支障が生じた場合、自治体が学生の受け皿を探すことなどを義務づけている。しかし、LEC大学の申し入れを受けて特区申請した14市区のほとんどが、大学の実態を十分にチェックしていなかった。

大学設置・学校法人審議会による審査期間も、わずか3か月だった。大学の設置審査は、通常7か月を要するが、04年春の開校に間に合わせるため、特区を推進するための特例として短縮された。あまりにも拙速だったのではないか。

予備校のような授業が3年間も放置された背景には、03年度に大学設置基準が大幅に緩和されたこともある。大学と資格試験予備校などの校舎の共用を禁じた条項も、廃止された。

LEC大学は、今後、自主的に大学と予備校の授業を分け、カリキュラムの再編に取り組むという。

文科省は今後、大学設置基準の見直しに着手する。教育の質の確保のため、最低限度の歯止めは必要だろう。

現在、特区に株式会社が設立した学校は、大学6、高校13、中学1に上る。文科省の調査に対し回答のあった16校中12校が、大幅な定員割れだった。

特区に株式会社として学校を設立する場合、学校法人を作る煩雑な手続きが省ける反面、私学助成も受けられない。学生のニーズを反映した教育が期待されるが、運営に一定のリスクも伴う。

それだけに、行政によるチェックも欠かせない。

今回のような法令違反が繰り返されるのなら、特区だけに認められている株式会社大学の全国解禁は、当分見送らざるを得ないだろう。