『読売新聞』2007年2月28日付

高専の実力(2)
熱心で優秀 大学が注目


「大学に来たと実感したのは大学院に進んでから。覚えることより自分で考えることが要求されるし、研究にも存分に打ち込める」

いまの学生生活をこう表現するのは、豊橋技術科学大学(愛知県豊橋市)の大学院生産システム工学専攻修士課程1年の秋月拓磨さん(23)だ。熊本電波工業高等専門学校(熊本県合志(こうし)市)の電子制御工学科を卒業し、豊橋技術科学大の3年に編入、そのまま大学院に進んだ。

秋月さんの目の前にあるのは自動車運転シミュレーター。いま取り組んでいるのは、車を運転中の人の、姿勢の変化や目の動き、顔の様子などから、居眠り運転やスピードの出し過ぎなど、事故につながる前触れを分析する技術の開発だ。

社会的意義がわかりやすい研究でもあり、「とても熱心で大きなエネルギーを傾けている」と、指導する今村孝助手(32)の評価は高い。





豊橋技術科学大学は、主に高専卒業生を受け入れる大学として、長岡技術科学大学(新潟県長岡市)とともに1976年に設立された。1年生の定員は80人だが、3年次編入定員が300人。基本的には大学院進学を前提とする。

学部段階では、高専での学習内容を改めて科学的な視点で見直し、技術に対する理解を深める「らせん型教育」が特色だと、高専連携室長の青木伸一教授(49)は説明する。

編入した高専卒業生は卒業研究も終えているため、高卒の学生よりも専門知識の差があるのは当然だ。実験の手際の良さや、問題に突き当たったときの解決能力、研究報告を書く力は、高専卒業生の方が高いが、学術的な理論や数式の理解では、高校からの進学組の方が優れている面もあるという。お互いに刺激しあい、成長する意義も大きいようだ。





一般の大学でも、最近では高専卒業生の受け入れが増えている。

東京農工大学工学部(東京都小金井市)では、毎年約70人の3年次編入枠を設け、その8割が高専卒業生という。一般の学生とほぼ同じ割合の3人に2人は大学院に進む。「目的を持って進学してきているため、取り組みはまじめで、他の学生にも刺激になる」と、工学部で編入学を担当する中村暢文・助教授(42)は高専生を評する。

編入生が戸惑わないように、カリキュラムの内容や履修の仕方について、1年生と一緒にオリエンテーションを受けさせるほか、各学科ごとに助言する。先輩の編入生との縦のつながりもあり、情報交換が盛んだという。「産学連携で良い成果を上げ続けることが、高専生募集への何よりのアピールになる」と中村助教授。

現在は優位を保つ技術科学大も「高専と共同研究をするなど、太いパイプを築き、学生を確保していきたい」(青木教授)。

少子化が進む中、優秀な高専卒業生は、大学にとって、のどから手が出るほど欲しい存在とみた。(吉田典之)

150大学に進学 国立高専機構によると、高専卒業生の進学率は、国公私立全体で1985年度は1割だったが、95年度には2割になった。2006年度は27.4%(2780人)に達し、長岡技術科学大工学部(357人)と豊橋技術科学大工学部(351人)で4分の1を占める。編入先は約150大学250学部に上り、東京農工大(78人)、千葉大(63人)の各工学部が3、4位。