『信濃毎日新聞』社説 2007年2月27日付

教育関連法案 なぜそんなに急ぐのか


文部科学相の諮問機関である中央教育審議会が、猛スピードで三つの改正法案を審議している。25日の日曜日に終日審議したのも、諮問から1カ月で答申を目指すのも、異例なことだ。

安倍政権の重要課題といっても、教育政策の見直しを急いでたたきあげようとすれば禍根を残す。特に教育委員会制度の見直しは地方分権の点からも問題が多い。いま急いで改正する必要はない。

中教審は約半数の委員が交代して6日に新体制になったばかりだ。今国会への提出を目指す3法案について、伊吹文明文科相が3月初めには答申を、と求めている。

担当の分科会による審議は14日に始まり、16日、21日、25日と立て続けに会合を開いた。約1カ月と期限をきったがための詰め込み審議だ。

内容が固まったのは教員免許に更新制度を導入する教員免許法、副校長の新設などを柱とする学校教育法の改正案である。これまでに中教審で論議した内容を踏まえたものだ。

教員免許は10年間有効とし、更新時には大学などで30時間程度の研修を受けるようにするのだという。指導力が足りない教員は、研修を受けても問題がある場合に免職などの措置をとる。

学校教育法の改正では、学校内に副校長、主幹、指導教諭を置けるようにする。管理業務の分担や教員の指導役を設ける狙いだ。

それで教員の質が保てるか、教師の世界が息苦しくならないか−など、心配な面を含んでいる。拙速で結論が出せる性質のものではない。

中でも問題が大きいのは教育委員会制度の見直しである。現行では文科省は教委に対して助言する仕組みだが、是正を勧告する権限を持つようにすることが改正案の目玉だ。都道府県教育長の任命に国が「一定の関与」をすることも盛り込んだ。

地方分権の流れに反する−。全国知事会や市長会などが反対声明を出している。政府の規制改革会議も、国の権限を強化する方向であってはならないと批判した。

中教審は、地域に合わせた教委組織の弾力化や市町村教委への人事権移譲といった方向は打ち出している。だが国の是正勧告権は、いじめによる自殺や高校の未履修問題をきっかけに焦点となった。教育の分権にかかわる問題だ。あいまいな表現のまま法制化すると、上意下達の圧力が一層広がることになる。

中教審は28日も会合を開き、週内にも答申をまとめる方針だ。急いで作った法案に、教育を立て直す力があるとは思えない。