『しんぶん赤旗』2007年2月11日付

予算・人員削減
火山監視体制ピンチ
通信ケーブルずたずた・進む無人化


世界有数の火山国・日本で、火山監視観測のための予算や人員が削減され、このままでは現状の体制維持も困難だ―。火山学者が危機感をつのらせています。(中村秀生)

2005年に噴火した阿蘇山。現在、静穏な火山活動が続いています。

「火口周辺にある13カ所の観測点のうち、現在機能しているのは3カ所だけ。通信ケーブルが、修理できないほどズタズタに切れている。更新しようにも予算がつかず、お手上げだ」

阿蘇山の観測を40年以上続ける、京都大学火山研究センター(熊本県南阿蘇村)の須藤靖明助教授はこう話します。

同センターの無線データ転送システムは、30年以上前、電話回線を使っていた火山観測分野で全国に先駆けて導入したものですが、須藤さんや「いまや時代遅れの装置になった。数千万円あれば更新できるのだが…」と窮状を説明します。

成果ある一方で

こうした事態は、全国共通の問題です。

火山学者らで構成する文部科学省の科学技術・学術審議会測地学分科会は今年1月、火山噴火予知計画についての報告書をまとめました。

報告書は、04年に爆発的噴火を起こした浅間山、現在も火山ガスを放出する三宅島などを例にあげ、「噴火の兆候を事前にとらえたり、活動状況を把握して防災に寄与した。火山噴火予知に関する観測研究の成果は順調にあがってきた」と評価しています。

その一方、研究機関や国立大学の法人化にともなって運営費交付金や人件費が削減され、「課題とされている観測研究の強化を行うことは、極めて困難な状況にある」と警告しています。火山噴火予知計画で整備された大学の観測網や装置の老朽化が著しく、更新のめどはたっていないといいます。

そのうえで報告書は、「大学等の法人化による火山噴火予知体制の弱体化が予想される状況では、監視観測を強化し、観測研究を含む基礎研究を推進するためには、観測やそれを取り巻く火山噴火予知体制の組織的・抜本的見直しが不可欠である」と訴えています。

報告書作成にかかわった藤井敏嗣(としつぐ)東京大学地震研究所教授は「観測所の無人化も進んでいる。伊豆大島では4年前まで技術者が常駐していたが、現在は無人で、夏場に雷が発生しても対応できない。浅間山や霧島の観測施設も、いつまで常駐できるかわからない」といいます。

後継者の不足も

火山学者の後継者不足も心配されています。藤井さんは「第一線の研究者が数年で次々と引退する。しかし、火山学系の博士号を取る学生は、この10年で半減した」と指摘します。

須藤さんは言います。「これまで、研究者が火山に常駐して、噴火のくせをつかむホームドクター(かかりつけ医)となってきた。そのためには、10年、20年の長期観測が必要だ。しかし、5年で研究成果を求められる現状のままでは、後継者の育成は期待できない」


国立大学の運営費交付金の削減 国立大学の法人化(2004年)にともなって、各国立大学に配分される国の予算(運営費交付金の一部が、毎年1%ずつ削られるしくみ。政府の07年度予算案では、運営費交付金や今年度より171億円減らされ、05年度からの3年間で減額は371億円にのぼります。