『読売新聞』2007年2月8日付

大学再編 大学再生(8)
発言し始めた事務職員


事務職員の提案で始まった改革が、大学再生のカギを握る。

「大地震が起きた時の復旧対策は?」「環境への負荷を減らすために最も心がけていることは?」

愛知県知多市のガス工場を訪れた日本福祉大学(愛知県美浜町)の学生4人が、案内役の職員に質問をぶつけていた。同大が、周囲の他大学も巻き込み、事務職員主導で数年前から作りあげてきた、学外で学生が学べる体験学習の場の一つだ。

参加者の1人で、福祉経営学部3年の飛石雅典さん(21)は「講義の中では学べない、新たな視点がもらえる」と意欲を見せる。改革の旗振り役を務めてきた同大事務局長、福島一政さん(58)は、こうした学生の姿を見ると顔がほころぶ。

高齢者が住みやすい町づくり、災害に強い町づくり、障害者にやさしい町づくりなど、これまでに数十の体験学習の場が用意された。



きっかけは10年ほど前に浮上した学生の単位不足問題だった。大学の単位は4年間で124単位取らなければならないのに、1年修了時に20単位を下回る学生がいっきに数十人も出た。そこで、福島さんは「放っておいても学生が勉強する時代は終わった。学ぶ意欲の低下は著しい」と痛感したのだ。

同じころ、慶応義塾大学の事務職を束ねる孫福弘・塾監局長(故人)らが発足させたばかりの「大学行政管理学会」と出合った。

全入時代による学力低下や定員割れを見越し、事務職員が大学アドミニストレーター(行政管理職)として教員と共に大学改革に携わって乗り越えるべきだという学会の主張に共鳴し、自分の大学の教員にも改善の必要性を訴えた。

「大教室での一方的な講義では、今の学生はついていかない」「体験型の学習の場を増やそう」「語学は到達度別がいい」

教員と職員の身分格差が今より顕著だっただけに、教育に口を出す事務職員に教員は露骨に不快感を示した。しかし、学生の成績や履修状況で学力低下をはっきりと示され、入学時の学生意識調査で手厚い学習支援を期待されていることを知り、教員たちはやがて、成績のふるわない学生や保護者と面談、手取り足取り教えるようになった。



現在、福島さんが会長を務める「大学行政管理学会」は、会員が1200人を超えた。

事務職員の専門職化を支援しようと、桜美林大学(東京都町田市)には、2001年に大学院国際学研究科に大学アドミニストレーション専攻も出来ている。現職の大学職員が通いやすいよう、新宿駅前にサテライトキャンパスを開き、2004年からは通信制も始めている。

さらに、05年には、東京大大学院教育学研究科に大学経営・政策コースも誕生。立命館大も同年、将来の大学院含みで大学行政研究・研修センターを作った。

教員と職員が手を携えて大学を変えていく時代が来たようだ。(松本美奈)

大学アドミニストレーター 大学の管理・運営にあたる専門職のこと。大学行政管理学会によると、大学の経営状況を熟知した上で経営陣とともに戦略をつくり、教職員をまとめて実践していくリーダー役だ。米国や英国では、事務職員らが仕事の傍ら、大学院でアドミニストレーターの学位を取り、その学位が収入や地位に反映される仕組みが確立されている。