『しんぶん赤旗』2007年2月3日付

残業代ゼロ・長時間労働野放し法案要綱
労使対立のまま「妥当」
労政審が答申


労働政策審議会(厚労相の諮問機関)は二日、サラリーマンを何時間でも働かせたうえ残業代も払わない「ホワイトカラー・エグゼンプション(WE)」などを盛り込んだ労働基準法改定案と労働契約法の法案要綱を了承する答申を出しました。WEなど法案の根幹部分について労使双方の反対意見を付記しながら「おおむね妥当」とする異例の答申となりました。

これを受けて、厚労省は今国会にも法案提出をねらっていますが、世論に背いて提出を強行すれば批判は免れません。

両法案要綱にはWEのほか、サービス残業の温床になっている「裁量労働制(企画業務型)」の対象者の拡大、「就業規則」によって使用者が賃下げなど労働条件の改悪を一方的に強行できる条項を盛り込んでいます。

長時間労働削減のため労働者が求めていた「時間外割増率」の引き上げについては、現行上限の四十五時間を超えても、現行25%以上の割増率を上回るよう努力義務を課すにとどまりました。

法案要綱を審議したこの日の労働条件分科会では、労働者委員が「(WEには)多くの人が反対している。長時間労働をどうするかが問われているのに、導入など認められない」と反対。使用者委員も割増率引き上げについて「経営に影響を及ぼす」と反対し、根幹部分で労使の意見が対立していることが改めて浮き彫りになりました。

そのため、使用者委員からも「主要部分について労使双方から反対意見があるのに答申をすることは理解できない」(日本商工会議所)との意見が出されましたが、労使双方の意見を付記することで了承されました。

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長時間労働・残業代ゼロ 法案要綱答申
中身もやり方も国民無視


労働政策審議会(厚生労働相の諮問機関)が二日、サラリーマンを何時間でも働かせたうえ残業代も払わない「ホワイトカラー・エグゼンプション(WE)」などを盛り込んだ労働基準法改定案と労働契約法の法案要綱を了承する答申を出しました。

WEを導入する労基法改定案については、昨年末の最終報告に続いて今回の法案要綱でも労使の委員が真っ向から対立し、まとめる状況にありませんでした。今回の答申に労使双方が反対したことを明記したことからも明らかです。

使用者委員からも「主要部分について労使双方から反対意見があるのに答申をすることは理解できない」(日本商工会議所)との意見が出されたのは当然です。にもかかわらず強引に押し通したやり方は、法案の中身とともに重大な禍根を残すものです。

見逃せないのは、最初から導入ありきで強引に審議をすすめてきた厚生労働省の姿勢です。

WEについて、労働者委員が「新たな制度の導入は認められない」と反対しても聞く耳を持たず、中身は変えないで「自律型労働」「自由な働き方」などと名前だけを変えて持ち出し、無理やり押し付けようとしました。

国民の圧倒的多数が反対しても、「説明不足だったので、理解を求めていきたい」(柳沢伯夫厚労相)として開き直り、あくまで押し付ける態度を変えませんでした。

そこには、過労死を生むような長時間労働やサービス残業にたいする批判を免れるため、それを合法化するWEの導入を求める財界の強い姿勢がありました。

この制度は、もともと財界の強い要望で二〇〇二年三月の「規制改革推進三カ年計画」に盛り込まれ、閣議決定されたことが始まりです。その後もアメリカ財界も巻き込んだ強い要求として執拗(しつよう)に求めてきたのです。

答申を受けて厚労省は今国会にも法案を提出を狙っていますが、情勢は財界や厚労省の思惑通りにはすすんでいません。

労働者や国民のたたかいで、WEは「過労死促進法だ」「サービス残業を合法化する」と圧倒的多数の国民から批判され、安倍首相も「現段階で国民の理解が得られていない」といわざるをえないなど法案提出が簡単にすすまない状況に追いこまれています。

相次ぐ労働分野の規制緩和が、働いても生活できない「ワーキングプア」を増大させ、日本社会の将来を危うくしかねない事態を招いていることへの批判が高まり、安倍首相も「ワーキングプアを前提とした生産なら問題」といわざるをえなくなっています。

国民のたたかいでつくりだした情勢を力にして財界・政府の攻撃を跳ね返し、人間らしく働くルールをつくるため、労働者、労働組合、国民の連帯したたたかいがますます重要になっています。(深山直人)