『読売新聞』2007年1月27日付

薬学部 空白県で学生争奪


私大が続々入試会場設置

私立の薬科大や薬学部が2007年度入試で、薬科大、薬学部のない県に試験会場を設ける動きが広がっている。薬剤師への人気の高まりから急増した学部数、総定員に対し、少子化に加えて薬学部の6年制移行で志望者の頭打ちが見えてきたからだ。「学生を掘り起こせ」と“薬学空白県”を舞台に綱引きを繰り広げる。

つくばエクスプレス(TX)が05年8月に開通し、首都圏とのアクセスがよくなった茨城県。今月24、25日、日本薬科大(埼玉県伊奈町)は水戸市に初めて、入試会場を設けた。

県内の6人が受験しただけだったが、茨城県土浦市の女性(19)は「県外だと気持ちが落ち着かないし、宿泊代もかかる。近くてうれしい」と歓迎。試験官の助教授は「受験生にきめ細かい対応をすることが、大学の生き残りにつながる。水戸に来るのも苦にならない」と話した。

日本薬科大は「過去の受験者数などを参考に実施した。(大学運営の)戦略の一つ」と説明し、静岡、千葉にも会場進出した。

水戸市ではほかに、国際医療福祉大(栃木県大田原市)、横浜薬科大(横浜市戸塚区)、新潟薬科大薬学部(新潟市)が新たに試験会場を設けた。新潟薬科大は「5人でも、6人でも受験生がいれば出向く。攻めの姿勢で臨む」とする。

日本私立薬科大学協会などによると、国公立も含めて薬科大、薬学部がないのは、茨城のほか、秋田、和歌山など17県。

東北薬科大(仙台市)は1949年の開学以来初めて、秋田県に試験会場を設ける。秋田県内で働く薬剤師の3割以上を輩出してきたが、背景には東北地方に今年4月、いわき明星大(福島県いわき市)、岩手医大(盛岡市、矢巾町)が薬学部を新設する動きがある。

秋田には新潟薬科大が10年以上前から、青森大薬学部(青森市)が04年度から試験会場を設け、今回、岩手医大も“参戦”する。

大阪大谷大(大阪府富田林市)などが乗り込むのは和歌山県。学部開設から35年にして進出する神戸学院大(神戸市)は、「競争が激しくなっているのは確か。一人でも多くの学生に受験してほしい」と必死だ。

文部科学省医学教育課によると、私大の薬学部は02年度の29学部(定員6635人)から、07年度には55学部(同1万1804人)とほぼ倍増。国公立大は計17学部のままほとんど変わらず、私大の過熱ぶりが際立つ。

薬剤師の需要は近年、化粧品会社の開発熱やドラッグストアの出店ラッシュなどで増加。そんな中、薬学部新設が03年に規制緩和され、拍車をかけた。

一方、大学進学者そのものが減少する中、薬学部の多くは06年度から6年制に移行し、今後、志望者離れはさらに進むとみられる。授業料の負担増と就職後の処遇を見据え、特に女子が減っているとの指摘がある。薬剤師の需要も06〜10年に頭打ちとなり、供給過多になるとの予測もある。

進学情報誌「薬系進路」の篠原倍雄(ますお)編集長は「数年後には、薬学部の淘汰(とうた)が始まるだろう」と話している。

薬剤師 薬剤師法に基づく国家資格で、厚生労働省によると2004年12月末現在、全国に24万1369人。医薬品の調剤を行うほか、医薬品の製造販売には配置が義務付けられている。薬剤師法の改正で、06年度の新入生から原則として6年制の薬学部を修了しないと国家試験の受験資格が与えられなくなった。