『東京新聞』社説2007年1月25日付

教育再生報告 首相の手のひらの上か


安倍晋三首相の私的諮問機関、教育再生会議が第一次報告を出した。「ゆとり教育見直し」など、首相の意向が強く反映されている。通常国会での法制化を急ぐとしているが、教育に拙速は禁物だ。

教育再生会議は発足から四カ月弱で報告にこぎつけた。池田守男座長代理は「安倍首相の強い思いがあった」と強調した。首相自身も「百点満点の報告だ」と、自画自賛とも受け取れる評価だ。

報告の基本的な考え方は、首相の従来の主張通り「『美しい国、日本』を目指して」などとされ、学力と規範意識が強調されている。

報告ではゆとり教育の見直しと授業時間10%増などを提言し、教員免許更新の厳格化や教育委員会制度改革のための地方教育行政法改正などの緊急対応を求めている。

報告に盛られた教育委員会改革や大学九月入学制などは、有識者委員から熟慮を要するなどの意見があり、昨年十二月下旬に公表された原案では見送られた経緯がある。

「アピール性が乏しい」と受け止めた官邸側が、原案を作り直させたという。今月に入り、首相自らが合同分科会に飛び入り参加してげきを飛ばし、数日前には法改正案を通常国会に提出できるよう伊吹文明文部科学相に指示している。

支持率低下の中で教育再生を政権浮揚の目玉にするため、報告提出を通常国会に合わせたとの見方や七月の参院選向けとの観測もある。政治優先なら教育からほど遠いのではないか。各界の有識者十七人は「教育のあり方を根本から見直してほしい」と要請されたはずだ。大胆な意見提言が期待されたが、首相の意向に沿うだけというなら役割を果たしたとはいえない。

第一次報告について伊吹文科相は「中央教育審議会(中教審)抜きの超法規的措置はできない」と述べ、「通常国会で関連法案すべてを通すのは無理だ」と慎重な姿勢だ。

教育の専門家が教育のあり方を審議する法的諮問機関として中教審がある。戦後教育の中立性を支えてきた教育委員会制度や三十年近く続いてきた「自ら学び考える」本来のゆとり教育に手を付けるというのは、重大な方針転換だ。拙速は避けねばならない。

学校現場は教師が生徒と十分向き合う余裕もないほどといわれる。学校の外部評価制の導入など、これ以上の管理強化は負担を増すだけだ。

報告のタイトル通り「社会総がかりで教育にあたる」ためには、国民的な論議が欠かせない。非公開のままでは肝心の議論の中身が見えない。やはり公開すべきではないか。