『山陽新聞』社説 2007年1月21日付

教育再生会議 議論が生煮えの報告案だ


政府の教育再生会議が、全体会議で第一次報告案を大筋で了承した。二十四日の総会で正式決定し、安倍晋三首相に提出される。

再生会議が立ち上がって三カ月しかたっていない。報告案には「ゆとり教育」の見直しなど教育の在り方を大きく変える内容が数多く盛り込まれているが、議論は生煮えであり、具体化には慎重でなければなるまい。

報告案は「七つの提言」と「四つの緊急対応」から構成されている。最初に掲げたのが、学力向上のための「ゆとり教育」の見直しだ。具体的には、公立学校の授業時間数を10%増やす、補習などのため「土曜スクール」を実施する、全国学力調査をスタートさせるなどを列記した。

さらには「規律ある教室にする」「すべての子どもに規範意識を教える」「魅力的で尊敬できる先生を育てる」なども掲げた。

報告案が提示したゆとり教育をはじめ数々の問題は、社会的に関心が高く、改善が強く迫られていた。現行の教育行政は文部科学相の諮問機関である中央教育審議会の議論を経て制度化されるのが一般的だ。しかし、改革のスピードが遅いとの批判がつきまとっていた。

安倍首相は、教育再生を政権の最重要課題と位置付け、成果を挙げるには中教審に頼らず、再生会議を通して官邸主導で改革を加速させる考えといわれる。報告案を読むと、これまで教育界で論議が続いていた課題に、一気に踏み込んでいる。気になるのは、提言は大胆だが、現場の理解は難しく、混乱を招きかねないことである。

「ゆとり教育」見直しにしても、学力低下とゆとり教育の関連性についてきちんとした検証はできていない。授業時間と教科内容の削減が問題なのか、教える内容に偏りが出たのか、教える側の力量が落ちたのか。そもそも、学力とは何を指すのかなどの問い直しが欠かせない。再生会議が提言する授業時間一割増の根拠がはっきりしない。

規律や規範を養う方策では「二十四時間対応のいじめ相談体制」など納得できるものもある。だが、「体罰の範囲」に関する政府通知を見直す、と体罰を容認したのは理解しがたい。さらには、高校での奉仕活動必修化を求めているが、ボランティア活動は有意義であっても、強制すれば反発が出る恐れがある。

列記された提言は、管理や規制を強めて問題解決を図ろうとする対症療法の改革と言わざるを得ない。拙速に実行に移せば、将来に禍根を残すことになろう。