『読売新聞』社説 2007年1月21日付

[宇宙基本法]「日本を『後進国』にしないために」


順調にも見えるが、その実態は綱渡りでお寒い――。日本の宇宙開発の現状を見ると、そう言わざるを得ない。

現状を打開するため、自民党が「宇宙基本法」制定を目指している。政府に宇宙戦略本部を設け、総合的に政策を進める、という内容だ。

目標として、宇宙開発・利用による安全保障体制の強化と研究開発の促進、産業の振興の3本柱を掲げている。これに沿って、宇宙戦略本部で、政府や産業界などが取り組むべき課題と方策を基本計画にまとめ、具体化して行く。

宇宙開発には、巨額の予算と幅広い技術、産官学の協力が必要だ。しかし、司令塔が政府になかった。早急に法案をまとめねばならない。

だが、公明党は「宇宙の平和利用」を逸脱する恐れがないか、と基本法に慎重な構えを見せている。過剰な反応ではないだろうか。

日本は現在、「宇宙の平和利用」について、「非軍事」としているが、国際的には特異な解釈だ。これが、自衛隊の衛星利用にも足かせとなっている。

日本も加盟する宇宙条約は、平和利用を掲げつつ、宇宙に大量破壊兵器を配備しないことを定めている。しかし、衛星による地上監視などは言及されず、実施しても、条約上は何の問題もない。

自民党は、基本法に「宇宙条約の定めるところに従い」との文言を盛り込み、国際標準に沿った形にする方針だ。

宇宙は、地上監視や通信傍受など安全保障上の目的で利用される方が圧倒的に多い。それを認めない方がおかしい。

カーナビなどに使われている全地球測位システム(GPS)や衛星通信も、もとは軍事目的だった。それが後に民間利用へ移転され、広く活用されている。

宇宙基本法は、安全保障問題にとどまらず、バランスの取れた宇宙開発・利用を進めるのが目的だ。与党案をまとめられるよう、公明党の協力を求めたい。

日本の宇宙開発は今、苦境にある。

例えば、打ち上げロケットはH2Aだけだ。先端ロケットだが、成功率は91%程度で、世界水準に達していない。大き過ぎて小型、中型の衛星を上げるには小回りが利かない。打ち上げビジネスへの参入が期待されるが、実現しない。

衛星は、世界的に注目されるようなプロジェクトが少ない。産業界も実用衛星の受注はほとんどなく、政府の研究開発絡みが頼りだ。これでは技術力の維持さえ難しい、と言われる。

中国、インドなども宇宙開発・利用に本腰を入れている。このままでは、日本は宇宙後進国になりかねない。