『産経新聞』2007年1月18日付

日本の大学 世界に売り込め


最先端の技術開発や産学連携の場である米カリフォルニア州シリコンバレーで、早稲田大、慶応大、法政大、東北大、横浜市大、大阪大、九州大、鹿児島大の日本の8大学が今月、現地日本企業などを巻き込んだ新たな産学官のネットワークを立ち上げた。「内向き」と評されがちな日本の大学が世界に打って出る原動力となったのは、「日本が正当に評価されていない」との危機感からだった。(サンフランシスコ 松尾理也)

8大学で組織する「サンフランシスコ・ベイエリア大学間連携ネットワーク」(JUNBA)は11日に設立会合、12日にシンポジウムを開いた。シンポ会場に選ばれたのは、大学と企業の活発な交流から世界的なビジネスが次々と生まれるシリコンバレーの象徴ともいえるスタンフォード大。200人収容の講堂は、日米の研究者、企業関係者らでほぼ埋まった。

同ネットワークは大学だけでなく、日本学術振興会、在サンフランシスコ総領事館、日本貿易振興機構(ジェトロ)に加え、IT(情報技術)系企業やベンチャー・キャピタルなど現地日本企業も参加した「オールジャパン」の組織だ。サンフランシスコの日本学術振興会の事務所を事務局として、英語のホームページを作り情報発信している。

旧来の縦割り組織の硬直性が残る日本の産学官が手を取り合った理由について、同ネットワーク副会長を務める竹田誠之・日本学術振興会サンフランシスコ研究連絡センター長は「日本はもっと高く評価されるべきだ、という思いがみんなにあったから」と説明する。

世界の頭脳がしのぎを削るシリコンバレーでは、中国、インドの存在感が急速に増す半面、日本への評価は相対的に低下している。竹田副会長は「日本は決して地盤沈下していない」と力説するものの、宣伝下手という日本の課題は認める。その危機感がオールジャパンの協力につながったというわけだ。今後は同ネットワークを中心に、8大学が米大学や企業との連携を進めていくことになる。

大学の評価をあらわす指標として、欧米で毎年発表される世界の大学ランキングがある=別表。日本で最高位の東大が19位、中国の北京大は14位、胡錦濤国家主席が卒業した清華大は28位だ。評価の低さに、国立大法人化で自由競争の時代に入り、さらに大学全入時代を迎えて今後、学生の奪い合いが激化する日本の大学の危機感は強い。

同ネットワーク会長を務める室岡義勝・大阪大サンフランシスコ教育研究センター長は、「日本の研究水準は決してレベルは落ちておらず、論文数や引用率もむしろ上昇傾向にある。にもかかわらず順位が低いのは、知名度を高める努力が不十分だったから」と問題点を指摘する。

昨年5月、シリコンバレーに米国代表事務所を開設した東北大はネットワークづくりのため事務所を開放し、シンポジウムを企画。日本が世界に誇れるニュートリノ分野などのシンポジウムを現地で開催し、東北大の研究者らが講演して知名度アップを図っている。九州大は今年3月に向け起業家精神を学んでもらうため同大の学生を対象に現地ツアーを準備している。

英語で事務処理が可能な人材など今後の課題は少なくないが、室岡会長は「日本の個々の研究者は日常的に海外とやりとりを行っている。こうした経験を生かせば、組織としての大学の国際化も十分可能だ」と話した。



 【2006年世界の大学ランキング】
  (1) ハーバード大(米)
  (2) ケンブリッジ大(英)
  (3) オックスフォード大(英)
  (4) マサチューセッツ工科大(米)
  (4) エール大(米)
  (6) スタンフォード大(米)
  (7) カリフォルニア工科大(米)
  (8) カリフォルニア大バークレー校(米)
  (9) ロンドン大インペリアル・カレッジ(英)
 (10) プリンストン大(米)
 (11) シカゴ大(米)
 (12) コロンビア大(米)
 (13) デューク大(米)
 (14) 北京大(中国)
 (15) コーネル大(米)
 (16) オーストラリア国立大(豪)
 (17) ロンドン大スクール・オブ・エコノミクス(英)
 (18) エコール・ノルマル・シュペリウール(仏)
 (19) 東京大
 (19) シンガポール大(シンガポール)
 (28) 清華大(中国)
 (29) 京都大
 (70) 大阪大
(118) 東工大
(120) 慶応大
(128) 九州大、名古屋大
(133) 北海道大
(158) 早稲田大
(168) 東北大
(181) 神戸大
 (英紙タイムズ傘下の教育専門紙THES調べ)