『朝日新聞』2007年1月19日付

ゲーム学科続々誕生、今春2ケタに 「実践」で人材育成


コンピューターゲームについて教える大学や大学院が増えている。今春に立命館大(京都市)などが学部やコースを新設する予定で、2けたに乗るのが確実だ。多くはゲーム業界で働ける人材育成に重点を置いており、「まるで専門学校だ」との批判がくすぶる。ただ、ゲーム産業は日本が競争力を誇る有望分野だけに、政府が担い手育成を後押しするなど「追い風」も強い。

80人の学生がパソコンの映像を見つめる。スピード感を感じた瞬間、ゲームでよく使うスティックを倒し、多くの人が反応する映像とはどんなものかをつかむのが狙いという。大阪電気通信大(大阪府寝屋川市)デジタルゲーム学科の「ゲーム評価法・演習」の一コマだ。

ゲーム大手のコナミで人気野球ゲームの開発に携わった長江勝也教授らが教える。「目指すのはゲーム業界を引っ張れる人材の育成。幅広い分野での基礎的な力が必要になる」と、プログラミングなど関連科目のほか福祉や心理学、アート関係の授業も設けた。

同大の06年度一般入試の志願倍率は全体で1.8倍だったが、デジタルゲーム学科は5.1倍と人気が高い。今春に初の卒業生を送り出すが、就職先はゲーム業界からイベント会社、ソフトウエア会社まで幅広い。

東大でもゲームを教える。大学院情報学環で、社会に及ぼす影響を研究テーマにすえつつ、教育への利用に向けた研究や人材育成の枠組みづくりなどを手がける。が、こうした「研究型」は少数派で、著名なゲーム開発者を招くなど「実戦型」の大学が多い。

生徒を送り出す側の高校教員らには「学生を集めるための人気取り」「大学での学習になじまない」といった批判が根強い。

東大の調査によると、国内のゲーム会社に就職した学生の6割は専門学校卒。大卒は29%、大学院卒に至ってはわずか1%で、「ゲーム業界への就職に親がいい顔をしない」(東大の馬場章教授)との指摘もある。

しかし、海外では米国のマサチューセッツ工科大、中国の清華大など有名大学が人材育成を狙ったゲーム教育を強化しており、日本の関係者には「海外に後れをとる」と危機感が強い。経済産業省は06年8月に発表した「ゲーム産業戦略」で、国とゲーム産業が連携して人材育成を進める必要性を強調。同年5月にはゲーム研究者らが日本デジタルゲーム学会を立ち上げるなど、産官学の動きは急だ。

大学では今春も、ゲーム関連の学部・学科の新設や拡充が相次ぐ。立命館大は映像学部を新設し、地元の映画業界との連携を目指す。アニメーション学科にゲームコースを設置する東京工芸大(神奈川県厚木市)は、物理や数学の力をつけさせながらゲーム制作の実習を進める。既にゲーム関連のコースを持つ宝塚造形芸術大(兵庫県宝塚市)も、東京新宿キャンパスに同様のコースを設ける。

■ゲームについて教える主な大学

大阪電気通信大    デジタルゲーム学科
東北芸術工科大    メディア・コンテンツデザイン学科
宝塚造形芸術大    映像造形学科
デジタルハリウッド大 デジタルコンテンツ学科
東京大        大学院情報学環
東京工芸大      ※アニメーション学科ゲームコース
立命館大       ※映像学科 
 ※は07年4月に新設