『読売新聞』2007年1月18日付

特区大学に初の改善勧告、株式会社設立「LEC東京」文科省が発動へ


構造改革特区制度を利用して株式会社が初めて設立した「LEC東京リーガルマインド大学」(本部・千代田区)について、文部科学省は、多くの専任教員が大学で教育も研究も行っていない点などが大学設置基準などの法令に違反している疑いがあるとして、学校教育法に基づく初の改善勧告を行うための手続きに入った。

大半の教員授業せず ビデオ講義学生だけ

改善勧告は、規制緩和で大学の設立が容易になったのに伴い、2003年から導入された「事後チェック」措置だが、これまでに発動例はなかった。「大学全入時代」の到来で、淘汰(とうた)の動きが進むことが予想される中、大学認可のあり方も改めて問われそうだ。

LEC大は04年4月、資格試験対策の予備校を経営する株式会社「東京リーガルマインド」が開校。司法試験や公認会計士などの資格取得を目指す実学重視の姿勢を打ち出していた。

ところが、文科省の複数の調査で、〈1〉予備校のテキストを使い、大学生と予備校生が同じ教室で授業を受けている〈2〉約170人の専任教員の多くが別の仕事と掛け持ちで、担当の授業を持っていない上、大学での研究活動もしていない〈3〉ビデオを利用した授業で教員がおらず、学生との質疑応答などができないケースがある――などの実態が次々に明らかになった。

これらの一部は、専任教員に大学での教育・研究を求めた大学設置基準などに違反する疑いが強い。同省はLEC大側に文書で指導を重ねてきたが、改善が見られなかった。

大学の新設について、文科省は長く抑制方針をとり続け、認可前に厳しい審査をしてきたが、新規参入による競争を促すことで教育の質を高めるため、03年に認可の基準を大幅に緩めた。同時に、認可後のチェックを徹底するため学校教育法が改正され、法令違反が確認された場合、まず是正を求める改善勧告、続いて変更命令、さらに廃止命令という強い措置を段階的に行う仕組みが整えられた。

同省は今回、改善勧告のための手続きとして、LEC大に資料を提出させ、来週にも大学設置・学校法人審議会に諮問した上で、勧告を行うと見られる。

構造改革特区制度を利用して株式会社が設立した大学は6校ある。

LEC大は総合キャリア学部の1学部制。通学、通信教育合わせて計14のキャンパスがある。1学年の定員は1085人だが、現在の学生数は約790人。

LEC大総務部は「文部科学省の結論がまだ出ていない段階でのコメントはできない」としている。

審査わずか3か月、「良い悪い判断できず」

文部科学省が大学に対する初の改善勧告に向けて動き出した。「LEC東京リーガルマインド大学」(本部・千代田区)は、特例によりわずか3か月の審査で設置認可されていた。審査を行った大学設置・学校法人審議会の複数の委員は「認可時の審査が性急だった」と証言している。

大学の設置認可は通常、4月末までに申請を行い、7か月の審査を経て、11月末に出される。しかし、構造改革特区制度で株式会社に大学設立が解禁された初年度の2003年度だけは、新制度を推進するためという理由から、10月末に申請を出せば、翌2月中旬に認可が出されるという特例が認められた。このため、LEC大学は3か月の審査で、04年4月に開校した。

「全く新しいことを始めるのだから、慎重にやるべきだったが、短い期間で結論を出さなければならず、良いとか悪いとか判断できる状態ではなかった」。同審議会の委員として、審査を行った荻上紘一・元東京都立大学長は振り返る。

LEC大の経営母体となる株式会社「東京リーガルマインド」が展開する予備校との区別について、疑問視する声も委員の間で上がっていたという。委員を務める前筑波大学長の北原保雄・日本学生支援機構理事長は、「(大学が)給料を払わない専任教員がたくさんいるなど、審査途中でおかしい点にいくつか気付いたが、『改善します』と約束され、どうしようもなかった」と明かす。

審議会委員で審査を担当した黒田寿二・金沢工業大学学園長も「認可した側として忸怩(じくじ)たる思いがある」とした。

[解説]新設増え問われる質

大学については、教育内容に問題がある場合には学校教育法、経営内容に問題がある場合は私立学校法で処分の枠組みがある。過去に私立学校法に基づく解散命令が出された酒田短大など3短大は経営悪化が原因だった。LEC大に対する今回の改善勧告は、教育内容を問題にした初のケースで、大学の質が厳しく問われる時代になったといえる。

文部科学省が昨年、明確な法令違反とはいえないものの、授業内容などに問題があるとした大学は約40にのぼり、改善が見られなければ、新たな勧告対象になる可能性も潜んでいる。

一方、LEC大を巡っては開校当初から、問題を指摘する声が学生などから出ていたが、同省が改善勧告に向けて動き出すまで、時間がかかりすぎたとの指摘もある。

新設大学の門戸が広がる一方で、質の悪い大学を速やかに処分する仕組みが機能しなければ、国のお墨付きを信じて入学した学生が被害を被るだけに、大学設置基準や事後チェックのあり方について、見直し論議も求められる。(村井正美)