『朝日新聞』2007年1月12日付

奨学金返還、滞納増で督促を強化 学生支援機構


大学生らに奨学金を貸している独立行政法人「日本学生支援機構」(本部・横浜市緑区)が、奨学金を返さない人への「取り立て」を強めている。民事手続きに基づく「支払い督促の申し立て」の予告件数が06年度は1万件を超え、05年度の2倍強、2年前の二十数倍と急増中だ。長く続いた就職難が影響してか、未返還が増えていることや、独立行政法人化に伴って事業の採算性が求められるようになったことへの対策で、今後も厳しい姿勢で臨むという。

機構は特殊法人だった旧日本育英会の事業などを引き継いで04年に設立され、無利息の「第一種」と利息付きの「第二種」の奨学金を貸している。05年度の貸与者は第一種が約40万人で、第二種は約58万人。大学・短大、大学院、高専、専修学校(専門課程)の学生らが対象(高校は05年度入学分から都道府県に移管)で、05年度は大学・短大生の3.9人に1人、大学院生の2.5人に1人が利用した。

卒業後に返すのが原則だが、返還状況は芳しくない。05年度は計2575億円が返還予定だったが、未返還は約2割の562億円。3カ月以上滞っている人も年々増えており、06年3月末で約18万5千人。同時期の貸付残高は4兆2518億円で、06年度の奨学金貸与予算7810億円の約5.4倍に当たる。

第一種の場合、06年度の大学・短大の新入生への貸与月額は4万〜6万円台。卒業後の返還年数は十数年という設定が多く、毎月7千〜1万8千円台と貸与月額より少なくて済む。ただ、延滞が1〜2年の約1800人を対象に機構が05年度調べたところ、理由は「無職・失業」が20.3%と01年度の6.5%から急増しており、就職難が響いているようだ。

機構は、口座振替制度への加入を呼びかけ、残高不足で振替ができなかった人には電話や文書で督促している。保証人らへの督促も早い段階から行うようにしたが、効果はいま一つ。返還金は新たな貸与に充てており、第一種では06年度は予算の約7割を占める。学費の値上がりもあって奨学金の希望者は増えており、機構は督促の申し立ての予告に乗り出した。

予告の対象は原則として、失業や病気による返還猶予の手続きなどをしておらず、返す能力があるとみられるのに、1年以上滞り、再三の督促にも応じない人。顧問弁護士名で期限を指定して予告し、期限が過ぎた場合は裁判所に申し立て、最終的には強制執行の手続きに移る。予告すれば返還する人も多く、強制執行まで至ったケースは05年度は4件だった。機構は06年度分の予告を終え、件数は1万473件。4167件だった05年度の2.5倍に達した。

◆所得に応じ、違う対応を

〈教育費の問題に詳しい小林雅之・東京大学大学総合教育研究センター助教授の話〉 法的な措置を取る場合、相手が返さないのか、それとも返せないのかをはっきり区別しないといけない。所得が高いのに返さない人からはペナルティーとしてきつく取るべきだし、失業中の人には違った対応が必要だ。所得に応じて返す金額を決め、低い人には猶予する「所得連動型」の奨学金も考えてみてはどうか。