『宮崎日日新聞』社説 2007年1月11日付

市場化テスト拡充 「省益」の発想では進まない


公共サービスの担い手を「官」と「民」が対等な立場で競争入札して、価格や質の面で優れた方に決める「市場化テスト」の対象事業が2007年度から拡充される。政府は次期通常国会に「公共サービス改革法」(市場化テスト法)改正案を提出する方針だ。

市場化テスト法は昨年7月に施行され、「民間にできることは民間に」という小泉純一郎前首相の構造改革具体化の一つだ。だが、実態は「民民入札」で、官の腰が引けた対応である。

監督行政にかかわる分野や、人員削減につながる行政サービスの移管には「省益」を優先した各省の消極姿勢がある。納税者の利益のためには慣例や慣行、省益を重視した姿勢は通用しない。

■自治体へも導入促進■

市場化テスト法の狙いは単純に民間に事業を開放するというのではなく、競争原理の導入によって公共サービスの質の向上と行政経費の削減を図ることにある。対象事業は合計27事業になる。

法律施行前のモデル事業を含めた既存事業、政府が昨年末の閣議で決めた国営公園の維持・管理業務、国民健康保険や車庫証明、パスポートに関する窓口業務など16事業である。

自治体に対しては市場化テストの実施を義務付けていないが、独自に取り組んでいる自治体も目立ち始めた。政府は関係法令に特例を設けるなど環境を整備し、自治体への導入促進を図りたい考えだ。

だが、最大の問題は「官の抵抗」である。市場化テストの実施対象の選定をするために、第三者機関として官民競争入札等監理委員会が設置されている。監理委は民間業者から希望する事業を受け付け、事業を管轄している各省と協議し、入札の調整を行う。ほかには入札が適切に実施されているかどうかを監視する役割も持つのだ。

■ほとんどが周辺業務■

追加対象となった事業を含めた市場化テスト法の27事業は、監理委が自治体などからの要望のあった193件について各省からヒアリングをもとに決めたものである。だが、内容的には証明書の交付、統計調査票の整理といった“周辺業務”が大半だ。

監督行政にかかわる内容、人員の大幅な配置転換につながる行政サービスは各省とも抱え込んだままであり、「省益」優先の姿勢そのままだ。

象徴的な例が公共職業安定所(ハローワーク)の職業紹介事業。民間の人材派遣会社などから開放への希望が多かったが、厚生労働省は頑として譲らず対象から外れた。厚労省の主張は、日本が批准している国際労働機関(ILO)88号条約で「職業安定組織は国の機関の指揮監督の下にある全国的体系で構成する」ことが義務付けられていることを根拠としたものだ。

だが、同条約批准国のオーストラリアでは1998年から、就職支援サービスの提供主体を競争入札で選定する仕組みに移行し、就職率向上など民間移行の効果が上がっているという。

政府が担う無料職業紹介の機能を確保することは必要だ。その上で民間の知恵を生かし、職業紹介や職業訓練を充実させて強化していくことが不可欠な時代である。

安倍晋三首相は所信表明演説で「市場化テストの積極的な実施で、官業を広く民間に開放する」と述べた。各省の守りの姿勢を変えるには安倍首相の強い指導力が必要だ。