『産経新聞』主張 2007年1月9日付

市場化テスト 求められる政治の指導力


既得権益は手放さない頑(かたく)ななまでの官の抵抗ぶりがまたも浮き彫りになった。公共サービスの担い手を行政と民間が競争入札して決める「市場化テスト」をめぐる政府の官民競争入札等監理委員会(委員長・落合誠一東大大学院教授)と各省庁の攻防は激しかった。

政府は監理委の判断に基づき、国営公園の維持管理業務や国民健康保険を取り扱う自治体の窓口業務など16事業を新たに市場化テストの対象に加えることを閣議決定した。これにより事実上の初年度となる来年度の対象事業は既に試行中のものと合わせ、計27事業となることが最終的に決まった。

しかし、事前に民間や自治体から寄せられた要望(193件)に比べると、「民間でできることは民間で」という制度導入時の狙いとは程遠い結果になったと言わざるを得ない。なかには保険料不払い者への督促など、自らが嫌な仕事を民間に押しつけただけとしか思えぬものも少なくない。

焦点となっていたハローワークの中核事業である「職業紹介」への導入は結局見送られた。厚労省の強い反対が背景にある。最大の理由は、国による全国規模の職業紹介ネットワーク維持を求めた国際労働機関(ILO)の88号条約に抵触するからだという。

だが、2万3000人のハローワーク職員の約半数が非常勤であり、その多くが直接、職業紹介にかかわる業務に就いているという実態はどう考えればいいのか。国の業務だから国家公務員でなければならぬとする主張にはやはり首をかしげざるを得ない。

官業にも民間の競争原理を導入するという市場化テストは、お役所仕事になりがちな公共サービスに客観的なコスト評価のメスを入れることで、質の向上とともに税金の無駄遣いを改める効果が期待されている。

ところが、今回決まった対象事業にも官側は最初から入札不参加の方針という。これでは市場化テストの本来意義が生かされないことになる。

監理委の落合委員長は対象事業の決定にあたり、市場化テストの成功には「断固とした政治のリーダーシップが不可欠」と注文をつけた。同感である。官僚の独善を排すためにも、安倍晋三首相には強力な政治指導力の発揮が求められている。